事業承継サイトで跡継ぎなき会社を救う――大山敬義(バトンズ社長兼CEO)【佐藤優の頂上対決】
中小企業が大多数を占める日本の会社では、ここ10年ほどの間に、245万社が代替わりするという。問題はその半数近くに後継者がいないことだ。こうした現状に対処すべく、ネットで後継者を見つけるビジネスが誕生した。果たして会社はネットでどのように売り買いされているか。
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佐藤 大山さんが運営されている事業承継サイトは画期的なアイデアですね。後継ぎのいない商店や町工場などの中小企業と、それを引き継ぎたい人たちをネット上でマッチングさせている。
大山 ありがとうございます。そのマッチングを「スモールM&A(合併・買収)」と呼んでいます。最初は億単位のお金を注ぎ込んで大赤字でしたが、3年経ってようやく黒字になりました。
佐藤 婚活サイトみたいに、求め合う両者を繋ぐわけですね。
大山 その通りです。
佐藤 資料を読んで驚いたのは、いまは倒産より休廃業・解散の件数のほうが圧倒的に多いことです。つまり後継者さえいれば、存続できた会社が相当ある。
大山 2020年度の倒産件数は7773件で、休廃業・解散は4万9698件と、6.4倍になります。しかもこの件数は過去最多です。
佐藤 今後もその傾向は続くのですか。
大山 そうですね。いま日本には会社が381万社くらいありますが、70歳以上が経営する会社が245万社あります。そのうち127万社は後継者がいないといわれています。また中小企業では経営者の高齢化が進んで、中心年齢は69歳です。そして何と、代替わりの平均年齢は71歳です。多くの企業にとっては、代替わりは待ったなしの問題です。
佐藤 後継ぎのいない会社には、優良企業もあるのではないですか。
大山 ありますね。実は後継ぎのいない会社のほうが業績がよかったりします。堅実な経営で長く続いてきた会社が多く、その約6割が黒字企業といわれています。後継者がいなければ、それらがこの10年でほとんどなくなってしまうことになる。
佐藤 でも中小企業となると、なかなか子供たちが継いでくれない。
大山 実は私も神奈川県の建設会社の倅なんですね。祖父は建長寺などの仕事をさせていただいた宮大工で、父が継いで住宅建設にも進出し、私が3代目になるはずでした。
佐藤 継げ、とは言われなかったのですか。
大山 亡くなった父自身が、死ぬまで「自分のやりたいことはできなかった」と、悔やんでいたんです。継いでほしかったのだろうとは思いますが、口にはしませんでしたね。
佐藤 会社はどうなったのですか。
大山 20年くらい前に三つあった会社をみんなたたんで、もう跡形もありません。
佐藤 外務省時代、有能な先輩の実家が車の部品工場でした。審議官で辞めてその会社を継いだのですが、結局10年くらいで解散させてしまいました。お世話になった人たちを路頭に迷わせるわけにはいかないという責任感で戻っていったのですが、結局自分のやりたいことではない。だからほんとに難しい。
大山 そうなんです。私の世代くらいまでは、まだ親族が嫌々ながらも継ぐことが多かった。でもその後の世代はだんだんと継がなくなっていきました。それでまったく関係ない人に継いでもらう「第三者承継」がスムーズにできる仕組みが必要になったわけです。
佐藤 まさに時代の要請でできた仕組みといえますね。でも親族内承継のほうがいい場合もあるのではないですか。
大山 それはそうです。家業として同じことを続けて、それを代々伝えてきた会社がたくさんあります。日本はそうやって伝統を紡いできたわけですが、いまビジネスを取り巻く状況が大きく変化し、新しいソリューションとかデジタルトランスフォーメーションなどは、家業の中からなかなか生まれにくい。
佐藤 確かに家業だと、伝統的工法を守ればいいという雰囲気はあるでしょうね。
大山 東京では宣伝や販売にインスタグラムを使うのは当たり前ですが、地方はまだまだそうではない。伝統あるものを変わらぬやり方で売り続けている。でも人口は減るし、販路も変わるので、どんどん縮小していきます。ところが、ちょっと商品を磨いて、売り方を変えれば、売れるものはいっぱいあります。「リブランディング」と言いますが、それは家業の中では難しい。
佐藤 だから第三者承継のほうが、会社がよくなる確率が高い。
大山 これまでネットで会社を買うなんて考えられませんでした。それがいま、私どものサイトでは、だいたい売り手が5千くらい、買い手が12万くらい登録しています。
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