オレは空気が読めない…菅原文太が映画界の重鎮を激怒させた“二大事件”
生きていれば、人間は変わる。偉くなって胸を反らせ、落魄して背中を丸める。周囲の期待に合わせて素の自分をおさえたり、恩義にこたえるため筋を曲げることだってあるだろう。だが、菅原文太は違った。「俺は空気が読めないところがある」と語ったスターの知られざるエピソードを、丹念な取材をもとに『仁義なき戦い 菅原文太伝』(新潮社)を執筆した松田美智子さんが紹介する。
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セーターに下駄履き
「仁義なき戦い」の広能昌三役で看板スターにのし上がり、続く「トラック野郎」シリーズで、ドル箱スターと呼ばれるようになった菅原文太だが、東映の大物二人を激怒させる出来事があった。
文太はまず、社長の岡田茂を怒らせた。プロデューサーの吉田達が、当時の状況を振り返る。
「70年代の中頃に、会社が電通の真似をして大々的な新年パーティを開いたんです。招待客が入りきれないので、一般のファンの人と、出資関係者を2日間に分けて開いたんだけど、映画館主とか銀行員とか資本家が集まった日に、文ちゃんはセーターに下駄履きで現れたんです。ズボンのポッケに手を突っ込んでね」
ほとんどの出席者がスーツや着物など晴れ着姿だったので、文太の服装はかなり浮いていた。それを見た岡田は、激怒したという。
「後日、会議があったときに、社長が『バカ野郎だ、あいつは』と文ちゃんを名指しで怒ったんですよ。『パーティを二日に分けた意味を分かっとるはずやろうが』と。当日は会社の大事な出資元を招待していたわけだよね。その人たちが、鶴田(浩二)さんと写真を撮ったり、松方(弘樹)の名前が付いた升を貰って喜んでいたりするんだけど、文ちゃんの服装を見てどう思ったのか、社長は非常識だと怒ったわけ」
この頃、文太が出演していた「トラック野郎」シリーズは、松竹の「男はつらいよ」シリーズと並ぶ人気で、配給収入を更新し続けていた。いっそ、文太が主人公・星桃次郎の扮装をしてパーティに現れたら、喜ぶ出資者もいただろう。
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