小説家・佐原ひかりの人生を変えたチェコ人サッカー選手とは? 中2で知った“推し”の感覚
心をわしづかみにされたロシツキーのプレー
血の繋がらない変わり者の弟との日々を描いた『ブラザーズ・ブラジャー』でデビュー、第2回氷室冴子青春文学賞大賞を受賞した小説家の佐原ひかりさん。彼女の人生を動かしたのは、中学2年生の頃、ひとりの“推し”との出会いだった――。
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今から15年前。2006年の6月。朝から夜までひたすら勉強という典型的優等生だった中2のわたしに、ビッグ・バンがおとずれた――W杯ドイツ大会である。
その日、祖母宅で何の気なく観ていたチェコ対アメリカの試合が始まりだった。
寄せては返す波のような攻守のラインに、針の穴を通すようなパスワーク。チェコサッカーの美しさも相当の衝撃だったが、中でもトマーシュ・ロシツキーという選手のプレーにわたしの心はわしづかみにされた。
鮮やかなボールさばきから生まれる創造的なパス。優雅なタッチから強烈なシュートを繰り出したかと思えば、誰よりも早く最終ラインまで戻ってディフェンスにも参加している。ゲームを操る俯瞰的な動きと献身的なプレーでアメリカとの戦いに勝利をもたらす彼の姿にノックアウトされたわたしは、その日から誰彼かまわずロシツキーという選手がいかにすばらしいかを説いて回った。教室のすみでもぞもぞ勉強していた人間が、いきなり取り憑かれたようにサッカー選手の話をしだしたのだ。クラスメートも先生も当然おどろいていたが、そこまで言うなら試合観てみるね、と言ってくれた。
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