「ゴルゴ13」が予言していた「原発事故」「神戸製鋼品質不正」 日本企業の危機管理の失敗例
狙った獲物は決して撃ち外さない稀代のスナイパー・デューク東郷。そして未来予測を外さない「ゴルゴ13」――。企業不祥事などの不測の事態を描く同作は“予言の書”の一面を持つ。その予言をもとに、日本の企業が陥りやすい危機管理の誤謬を読み解く。
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企業にとっての危機はどこから襲ってくるのか。外敵によってもたらされる。そう思いがちだが、実は内部の問題が引き起こすケースの方が多い。しかし、「忖度好き」でクサイものにフタをしがちな日本人は、それになかなか気づけない――。
「最も発行巻数が多い単一漫画シリーズ」としてギネス世界記録にも認定されている劇画コミック「ゴルゴ13」の作者、さいとう・たかを氏が亡くなったのは、9月24日のことだった。
訃報から2カ月を経た今も、氏の偉大な功績は多くの人々に語り継がれているが、あらためて再評価されているのが、「ゴルゴ13」の圧倒的なリアリティである。劇中で描かれる国際情勢、先端技術、さまざまな産業の最新動向などが、官僚や第一線で活躍するビジネスマンらさえ舌を巻くほど正確に描写されており、「マンガ」という次元を超えた情報量なのだ。
ただ、実はこの作品が凄いのはそれだけではない。劇中には架空の企業が引き起こした事故、不正、不祥事なども多く登場するのだが、時を経て「的中」しているものもある。つまり、未来を予見する「不祥事予言の書」という側面もあるのだ。
原発事故をディテールまで的中
とりわけ有名なのが、1984年に発表された「2万5千年の荒野」というエピソードだ。企業側の杜撰な安全管理が原因で原子力発電所にトラブルが発生。周辺を「死の街」にしてしまう水素爆発の危機が迫る中で、原子炉を冷却させるために、主人公のスナイパー・デューク東郷が敷地外からパイプを撃ち抜く――。このあらすじを聞けば、誰もが2011年の福島第一原発事故を連想することだろう。ちなみに、チェルノブイリ原発事故が起きたのは作品発表の2年後である。
また、1995年に発表された「病原体・レベル4」も近年、話題となった。デューク東郷が乗り合わせていた豪華クルーズ船の中で、密輸されていたサルから感染力の強いウイルスがまん延。市中感染を防ぐため乗客たちは上陸を許されず、船内で隔離されるという物語だ。密室となったクルーズ船内で未知のウイルスの脅威に晒される、という状況が、2020年、新型コロナウイルス感染拡大時のダイヤモンド・プリンセス号と酷似している。
もちろん、原発事故やパンデミックを題材にした過去の小説が「予言」などと話題になるようなケースは他にもあるが、それらのフィクションと「ゴルゴ13」が一線を画しているのは、事故や不正の原因、パニックの状況などのディテールが高い精度で的中している点だ。実際、「ゴルゴ13」の中には、発覚時に世界中で「信じられない」と驚かれたある企業の不正が、かなり細かいところまで「予言」されているものもある。それは、2013年2月の「腐食鉄鋼」だ。
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