NHKの受信料には法的根拠がない? 判決の根拠を突き崩す事態が続出

国内 社会

  • ブックマーク

受信料を徴収できない一つめの根拠

 まず、1の点だが、NHKがかつて「あまねく日本全国において受信できるよう」、離島に至るまで、電波のリレー網を整備したこと、そのために多額の資金をつぎ込んでいたことは事実である。これは素直に評価しなければならない。

 しかし、このリレー網は現在必要ない。今では、宇宙空間にある衛星から衛星波で日本全国に放送できる。事実、衛星放送のアンテナとチューナーさえあれば、日本のどこでもBS日テレ、BS朝日、BS-TBS、BSフジ、BSテレ東を受信し、視聴できる。

 地上波アナログ放送の時代は、NHKのみ全国的リレー網を持っていたために、民放は全国どこでも視聴できるわけではなかった。地方ではNHKプラス民放1局または2局という時代が長かった。現在でも民放5系列をすべて視聴できる県は少ない。

 ところが、衛星放送が始まってからは、NHKだけが「あまねく日本全国において受信できる」放送局ではなくなったのだ。NHKが設備投資した放送リレー網も、それまでに得た受信料収入で減価償却は終わったと見るべきだ。この段階で「あまねく日本において受信できる」ので、民放とは違って、受信料をとることができるという根拠はなくなっている。

政府の広報機関と化す

 では2はどうか。たしかに現行法ではNHKは広告収入を得ることを禁じられているので、法律を変えて、広告収入を得てもいいことにすればどうか。

 日本だけ見ていると気が付かないが、世界では公共放送が広告を流すのは珍しくない。韓国、中華民国、スリランカ、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、アイルランド、アイスランド、オーストラリア、ニュージーランド、ベルギーなどの国々では公共放送が広告収入を得ている。

 これらの国々の公共放送は、受信料や国からの交付金が収入の大部分を占めていて、広告収入はそれほど多くない。しかし、それは受信料・交付金が入るからであって、これらに頼ることができないとなれば、広告放送への力の入れ方も違ってくるだろうし、それによって収入を大幅に増やすことができるだろう。

 それでは、広告を流すことによって公共的性格は損なわれるだろうか。答えは、そもそもNHKは、民放にはない公共的性格など持っていないので、損なわれるものは何もないというものだ。

 むしろ、NHKは受信料制度があるがためにほとんど政府の広報機関と化していて、報道機関として民間放送にはない大きな欠陥を持っている。

 よく勘違いされていることだが、不偏不党、表現の自由を確保すること、健全な民主主義の発達に資することは、NHKのみに課された責務ではない。それは、民放を含めた放送全体が果たさなければならない放送法上の義務だ。したがって、これらのことはNHKだけが持っている公共的性格ではない。

 NHK独自の公共的性格があるのか、といえば、それは見当たらない。歴代の総務省のNHK受信料を審議する委員会のメンバーは「NHKの公共性とは何か」と問い続けてきた。つまり、公共性などないのだ。NHKはこの公共的性格という点でも、受信料を徴収する根拠を持っていない。

次ページ:イラネッチケー訴訟

前へ 1 2 3 4 5 次へ

[2/5ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。