日本人はマスクを外せなくなる? コミュニケーションに起きている異変…「顔学」の第一人者が警鐘
人間に豊かな表情がある理由
ところが、話はそんな生易しいものではなくなってしまいました。コロナ禍により、あくまでネット上のこととして考えていた「匿顔コミュニケーション」が、現実の世界のものとなったのです。マスクで顔を隠してのコミュニケーションは、まさに匿顔コミュニケーションに他なりません。
人間のコミュニケーションにおいて、顔がいかに重要なツールであるかを考える上で、まず「顔の歴史」を振り返ってみたいと思います。
人類がチンパンジーと分かれたのは約700万年前だといわれています。その後、直立歩行するようになり、人類は熱帯雨林の中から草原地帯であるサバンナへと飛び出していきました。
それは大変厳しい環境でした。見晴らしが良い分、いつ猛獣に襲い掛かられるか分からない。また、森の中にはすぐそばに木の実などの食料があったのに対し、サバンナでは遠くまで獲物を探しにいかなければなりません。そうした状況で、人間はひとりでは猛獣と戦えませんし、赤ちゃんを抱えたお母さんは遠くまではいけないので、集団の力で食料を獲り、分配する道を選んだ。そこではコミュニケーションが不可欠です。つまりコミュニケーションが、人類が生きていく上で死活的に重要な「本質」となったのです。
さらに、直立歩行によって人類の顔は柔らかくなりました。
動物の顔は、敵を攻撃するため、また手を使わず直接口でものを食べるために、大きく、そして硬くなり、前に飛び出しています。
一方、両手を自由に使えるようになった人類は、敵を攻撃する時に必ずしも口を使う必要がなくなった。そして、わざわざ口を前に持っていかなくても、手で食べ物を取って口に運ぶことができるようになりました。そのため顔が柔らかくなり表情が生まれた。豊かな表情によって、集団の中でお互いの気持ちを伝え、読む能力が発達したのです。
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