【ルポ】ついに判明した国際ロマンス詐欺犯「ジェニファー」の正体 SNSを通じて筆者に語った呆れた言い訳

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新たな「誘惑」

 この辺りでLINE電話がいきなり切れた。すぐにフランシスからメッセージが入る。

「ごめんなさい。データが終了しました」

「データ」というのは恐らく、プリペイドカードのようなもので、チャージした金額分を使い切ってしまったということだろう。その証拠にこんな要求が来た。

「グーグルプレイギフトカードを送ってほしい」

 末尾には両手を合わせて懇願する絵柄のスタンプが2個。「グーグルプレイギフトカード」とは、一定金額をチャージすることによって有料アプリや映画、音楽、書籍などを購入できるプリペイドカードの一種で、価格は1500円~2万円まで段階的に分かれている。

「グーグルプレイカードがあれば、また電話で話ができるよ」

 新たに私を「誘惑」するフランシス。そこで私は、

「もう一度だけ今、電話で少し話せないか」

 と尋ねると、あっさり「OK」。「データ終了」と言う割には、つながるではないか。とにもかくにも、再びフランシスとのビデオ通話が始まった。

再び連絡が…

 しかし、この通話で確認できたのは、ジェニファーの写真は他人のインスタグラムから無断で取ったことぐらい。それ以上、犯行の詳細について踏み込もうとすると、こう念を押された。

「グーグルプレイカードを明日には送ってほしい」

 翌日も、LINEのメッセージによる「グーグルプレイ攻撃」は続いた。既読にしないまま放置すると、

「親愛なる友よ。今は仕事中かな?」

 などとこちらの機嫌を伺う気遣いも見せる。だが、二言目には、

「グーグルプレイはどうなった?」

「友達になりたい」と近づいてきたその心は結局、「金づる」を作る目的でしかなかったのだ。

 もう一度電話で話せるタイミングを見計らったが、しびれをきらしたのか、今度はフランシスが私への最後通告を突き付けてきた。

「僕は昨日から何も食べていないんだ」

「僕はもう人生に疲れた。自殺を図って死ぬつもりだ。申し訳ないが、あなたとは二度と話さない」

 以後、再び連絡が途絶えた。最後通告から4日後、今度は私から、号泣する小鳥のスタンプを送信すると、すぐに既読になり、

「おはよう。今日は元気かい?」

 とあっけらかんとした返事。「自殺」はどこにいったのか……。そしてまたいつもの“あれ”が始まった。

「グーグルプレイカードを送ってくれ!」

 国境を越えた「友情」は、こうしてあっけなく終わってしまった。今、黄色い小鳥はどこを飛んでいるのだろうか――。

水谷竹秀(みずたにたけひで)
ノンフィクション・ライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに、「アジアと日本人」について、また事件を含めた世相に関しても幅広く取材している。

週刊新潮 2021年11月25日号掲載

特集「続『国際ロマンス詐欺』に騙されてみました ついに『美ボディー兵士』現る」より

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