任天堂・中興の祖「山内溥」 かつて「会社に必要なのはソフト体質の人間」と語った意味

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スイッチの大ヒット

 東京株式市場に任天堂株の人気が戻ってきた。2017年度の株式時価総額の増加額のランキングで任天堂が首位に立った。1年間で時価総額は2兆9785億円増え、期末の残高が6兆6386億円となった。

 17年3月に発売した家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の大ヒットが、低迷していた業績を一気に回復させた。スイッチは1年間で1505万台売れた。18年3月期の連結決算で売上高は前期比2・2倍の1兆556億円。9年ぶりの増収で、7年ぶりに売上は1兆円の大台を超えた。

 新型ゲーム機の販売で最も重要なのは立ち上げ時期だ。魅力的なソフトがあればゲーム機本体も売れるという好循環をもたらす。

 スイッチはスタートダッシュに成功した。「スーパーマリオ オデッセイ」が1041万本、「マリオカード8デラックス」が922万本など、ソフトの販売本数は6351万本になった。全世界で1億台以上売った06年発売の「Wii」に匹敵するペースで売れたことになる。

 スイッチは2015年に55歳で急逝した元社長の岩田聡が開発を指示した遺産だ。急遽、リリーフ役として社長に就いた君島達己は、スイッチの成功、業績のV字回復を機に若返りを図る。

「天国と地獄しかない」業界

 2018年6月古川俊太郎が、君島の後任の社長に就いた。コロナ禍、巣ごもり消費の追い風で、「あつ森」などゲームソフトが爆発的に売れ、好業績を叩き出した。

 古川は30歳代半ばまでの11年間、ドイツにある欧州総括会社に赴任して経営管理の経験を積み、君島が社長の時代に経営企画室長としてゲーム機の販売計画作りに携わった。君島はソフトのメーカーにゲーム機(スイッチ)の詳細な機能の情報を公開し、ソフトの開発を促した。魅力的なソフトが途切れないよう綿密な計画を練ったことがスイッチの成功をもたらした、と分析されている。

 問題はこれからだ。スイッチはピークアウトする。スイッチの次のヒットを生み出せるにかかる。

 古川は社長就任会見で、「この業界は天国と地獄しかない」と言い切った。これまでも任天堂は、ゲーム機の当たり外れで天国と地獄を行き来してきた。

 山内溥は、経営者の成功のカギは「ソフト体質の有無」にあると断言した。任天堂の経営はカリスマの2人が引っ張ってきた。創業家の3代目社長・山内溥と、元社長で今は亡き岩田聡だ。

 岩田の後任の君島は三和銀行(現・三菱UFJ銀行)出身で、古川は経理畑出身の実務家。およそ「ソフト体質」の人物とは思えない。ゲームの開発者たちから「古川WHO?」との声が上がったほどだった。

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