国内屈指のホワイトハッカーが警鐘 ガラパゴス化する日本のサイバーセキュリティ
狙いは日本企業とインフラ
〈幸いにも、期間中にこうした事態は起こらなかった。その大きな理由の一つは新型コロナウイルス感染症のまん延で海外から実行犯が日本に入国できず、思うように協力者の確保ができなかったことと見られる。また、守井氏は多くの競技が無観客試合とされたことも見逃せないと指摘する。〉
そもそも、世界中の人々が注視しているからこそ、ハッカーたちは攻撃をしたがります。ところが無観客となれば、そのインパクトは大きく下がる。それがハッカーにとっての動機喪失につながったことは間違いありません。先のドローンの話とも関連しますが、世界中のハッカーたちが情報の収集や交換をする「ダークウェブ」と呼ばれる特殊なサイトでは、こうした手法が議論されていた可能性も否定はできません。
具体的に予想された攻撃の一つが、「電磁パルス攻撃(EMP攻撃)」と呼ばれるものです。電磁パルス攻撃とは、強力な電磁波によって電子機器などを機能不全に陥らせることを目的とした攻撃です。基本的には核爆発などにより発生するものですが、最近では某国が電磁パルス攻撃を可能にする兵器を開発したのではないか、との報告書も上がっているようです。
もしそれが本当なら、ドローンはもちろん、携帯電話の基地局の精密電子部品などが標的にされる可能性もあります。電磁パルスは商用コンデンサーに過負荷をかけるなどの通常とは異なる使い方をしても、微弱ながら発生します。これだけではさほど意味は持ちませんが、ハッカーらが原理を応用して携帯電話の基地局や電波塔に攻撃をすることがあれば、スマホでの通話やデータ通信はもちろん、地上波のテレビ放送も途絶えかねません。
なぜハッカーは公共性の高いインフラを狙うのか
また、今年5月には、ランサムウェアを使ったサイバー攻撃でアメリカの大手パイプライン会社のシステムが停止し、5日間の操業停止に追い込まれました。仮に同様の攻撃が鉄道各社のシステムに行われれば、チケットの予約が停止したり、運行情報が改竄されて何万人もの利用者に影響が出ることもあったでしょう。とくにネットを利用した新幹線のチケット予約システムは、日本が世界に誇る極めて優秀なものです。もし、それがダウンして混乱に陥るような事態になれば、世界が高く評価している信頼が崩れることにもなりかねません。
どうしてハッカー集団は、公共性の高いインフラを狙うのでしょうか。それは、何十万人という携帯電話のユーザーや鉄道の乗客を混乱させることに成功すれば、その事実で自分たちの力量を世界中に宣伝できるからです。とくに、旅客業をはじめとする日本の正確無比なシステムは海外でもつとに有名なので、ハッカーのコミュニティ内でも大きく注目されるのです。
日本には自動車、鉄道、航空、家電などの各種メーカーだけでなく、ゼネコンやメガバンクなど、多くの世界的企業があります。といって、そうした大企業ばかりが狙われるとは限らないのがサイバー攻撃の世界です。
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