日テレ「二月の勝者」は放送枠で損をした? ようやく見えてきた黒木蔵人の正体

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

子どもの描き方

 小さな戦士たちである生徒の姿も繊細に描いている。第5話では男子生徒2人の姿を浮き彫りにした。

 塾で成績がトップクラスの生徒が集まるΩクラスで、その1位である島津順(羽村仁成、14)が、ワンランク下のAクラスにいる上杉海斗(伊藤駿太、11)をバカにする。これが発端で2人が取っ組み合いのケンカになってしまう。

 だが、成績が良い順が天狗になっていたわけではない。むしろ逆。辛いのは順のほうで、安穏としているように映る海斗をうらやましく思っていたのだ。

 順は父親の島津弘(金子貴俊、43)の支配下に置かれていた。弘は教育熱心を通り越し、順の学習面のすべてをコントロールしていた。まるで受験モンスターである。

 一方で順が勉強に行き詰まると、妻の優子(遠藤久美子、43)を怒鳴り散らした。「おまえが悪い!」。その上、机上の物にあたる。完全にモラハラだ。常軌を逸していた。

 それでいて弘はリアリティーのある男だった。おそらく、この男は満たされない日常を送っており、その鬱憤を晴らすため、無意識のうちに順を操ったり、優子を怒鳴ったりしているのではないか。

 その後、順と海斗は和解する。弘のことなどで悩んでいた順が塾に来ないため、海斗が心配して探し、出会えた2人がお互いの胸の内を素直に明かしたからだ。子供らしくて清々しかった。

 ラスト近くでは弘が海斗を意識しながら「バカの相手している場合じゃないだろう」と順を叱った。酷すぎる。これには順も怒った。

「ボクの友だちをバカっていうな!」

 おそらく弘への初めての抵抗だ。

 想像が膨らむのもこの作品の面白さ。生徒がいる各家庭の描写がリアルだからである。

 順の島津家についてはこう思った。

「順の体格が弘と同等になったら、弘はブン殴られるんじゃないか」「いや、それより先に優子と順が家を出るか」

 原作は高瀬志帆さんによる人気漫画だが、脚本はやや異なる。

 制作陣が無料塾の存在と中学受験をどう結論づけるのかが興味深い。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。