大口病院・元看護師の無期懲役、専門家「判決文に違和感」 結論ありきの判決か

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結論ありき

 判決文には、加害者は自閉スペクトラム症があり看護師の資質に恵まれず、また、当時、うつ状態にあっても勤務を続けていたため、ストレスをため込み、視野狭窄的心境になっていた。これが「いかんともしがたい事情」であり、また、「死んで償いたい」と述べ、反社会的傾向もないため、「更生可能性」も認められると記されている。しかし、

「大いに違和感がある」

 と言うのは、常磐大学元学長の諸澤英道氏。

「判決の要旨は12ページほどありますが11ページ目までは、『死刑』を想定した説明をしていて、最後の最後で『無期懲役』になる理由を駆け足で書いている。これを読む限り、裁判官たちははじめに結論ありき。死刑を回避する理由を無理に探しているように見えました」

 その理由というのが、先に述べた2点であるが、

「模倣犯たちに、刑を軽くしてあげますからやってくださいとアナウンスしているがごとき判決です」

 と憤るのは、犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務局長の高橋正人弁護士。

「仮に“いかんともしがたい事情”があっても、完全な責任能力があれば犯行を思いとどまることができるはず。にもかかわらず犯罪に及んだ者に対して制裁を科す、というのが刑罰の原則。安易に刑を軽くすべきではないですよ。また“贖罪意識”があろうとなかろうと死んだ人が戻ってくるわけではない。だからこそ遺族は命を差し出して償ってほしいと思うわけです」

本当に罪と向き合っているのか

 そして、

「人の命を守るべき看護師が、責任を逃れたいという理由で専門知識を悪用し人を殺すというのは、犯罪を防止できずに非難されるのを恐れた警察官が自らの手で市民を射殺するのと同じ。医療に対する信用の失墜という社会的影響の大きさを、判決は何も考慮していません。裁判官としての資質、能力が強く疑われます」

 そもそも、減刑理由の「贖罪意識」についても、久保木の言葉を額面通りには受け取れない。先述した48人の不審死について久保木は取り調べや精神鑑定の際、「20人殺した」「40人以上かも」などと述べていたにもかかわらず、公判になると「お話ししたくありません」と一変。本当に罪と正直に向き合っているのかどうか、疑念を抱かざるを得ない。

「裁判所の価値判断によって結論が出されたという印象を拭い去れません。被告人は少なくとも生きていくことは許された。ではこれからどうやって償っていくのかという思いです」(被害者・西川惣蔵さんの遺族)

 遺族はこの不条理にどう耐え抜けばよいというのか。

週刊新潮 2021年11月25日号掲載

ワイド特集「『大殺界』を抜けて」より

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