元公安警察官は見た 過激派シンパの予備校生を監視するために潜入捜査1年のてん末
ムスリムに改宗
それでも、Aから少しずつ情報を入手したという。
「授業が終わって、彼から『俺は残って自習室で勉強するけど、君は?』と言われたので、一緒に勉強しました。そこで彼に、『大学に入ったらどんなサークルに入る?』とさりげなく聞いてみたところ、彼はテニスとか旅行サークルなどちゃらちゃらしたものは嫌いだと言っていました。合コンなんかも嫌いだそうで、ちゃんとした勉強系の研究会に入りたいと。社会主義研究会がいいと言っていました」
Aは真面目な性格で、過激派との関係については明かさなかった。
「ある時上司から『Aが週末に過激派の集会に参加していた。なにか情報が取れないか探ってみてくれ』と指令がありました。そこでAくんに『週末、何してた?』と何気なく聞いてみると、彼は『家で勉強していた。あとは買い物に行ったくらいかな』と。集会に参加していた話は一切しませんでしたね」
勝丸氏の予備校生活は1年間にも及んだ。Aは、過激派のことは一度も口にしなかったという。
「Aくんは、目標としていた大学は再び不合格になり、二浪はしないという話でした。予備校を辞めるのであれば、私も予備校に残る理由はありません。『T大学を受験したけど駄目だった。あきらめて田舎に帰ることにした』と言い残し、彼の前から姿を消しました」
それから数年後、勝丸氏はひょんなことからAの消息を知ることになる。
「公安部が、東京にあるイスラム教の礼拝堂(モスク)に頻繁に出入りしている日本人男性がいるという情報を把握したのですが、名前を聞くとAくんでした。結局、過激派のメンバーにはならずムスリム(イスラム教徒)に改宗したそうです。将来、インドネシアに移住するということでした」
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