元公安警察官は見た 過激派シンパの予備校生を監視するために潜入捜査1年のてん末
日本の公安警察は、アメリカのCIAやFBIのように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。この9月『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、過激派に傾倒した男を監視するために予備校に潜入した話を聞いた。
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勝丸氏は警視庁に入庁した当初、公安捜査員として諜報活動を行っていたという。今から30年程前の話である。
「まだ公安捜査員として駆け出しの頃で、上司から潜入捜査を命じられたのです」
と語るのは、勝丸氏。潜入捜査を命じられた捜査員は、ある日忽然と警視庁から姿を消し、長期間戻って来ない場合もあったという。
「ターゲットは、予備校生のAくんでした。彼は、テロを引き起こす危険性のある過激派組織の思想に傾倒していたのです」
将来の過激派幹部
Aは高校生の頃から当時、過激派組織の牙城となっていた大学に憧れ、その組織のデモや集会に参加していたという。
「公安部はAくんが過激派組織の幹部に会っていることも把握していました。彼はその大学を受験するも合格できず、一浪して都内の予備校に通うことになったのです」
それにしても、高校生の頃から過激派組織に入れ込むとは……。
「将来過激派幹部になる可能性があると考えた私の上司は、今のうちに監視した方が良いと判断し、私を予備校に潜入させたのです」
勝丸氏は正規の授業料を払って、予備校生になった。むろん教職員に対しては、ごく普通の予備校生として接したという。
「当時、私は20代後半でした。さすがに何年も浪人していると言えば、周囲から浮いてしまいます。そこで、大学を卒業していったん就職したが、T大学に入り直して人生をやり直したい、と言っていました」
勝丸氏は予備校に毎日通い、Aが選択した授業に出席した。
「彼の近くの席に座って、最初『先週この授業休んだんだけど、どんな話をしていました?』と話しかけました。それがきっかけで、少しずつ話をするようになりました。彼と親しくなったのは、予備校に通い出して1カ月半ほどしてから。一緒にランチに行くようになったのです」
もっとも勝丸氏は、Aとはあえて少し距離を置いた。
「親しくなりすぎると、『君の部屋に遊びに行っていい?』と言われてしまいます。さすがにそれはまずい。私は一人暮らしで、貧乏で電話もないと彼に言っていました。実際は、電話はあるし、仕事関係の資料もあるので、身元がバレてしまいます。そのためランチに行くだけの関係に留めておきました」
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