投資額は2兆7700億円 江本孟紀が初めて明かす“女帝相場師・尾上縫”の素顔
怪しげな儀式を行う尾上
尾上は、隣に来ると、なぜか箸の柄にガーゼを巻いて水で濡らして眼を何度も拭いていたという。何のおまじないだったのか?と江本氏は今でも首を傾げるのだが、そこでさらに奇妙な光景を目にする。
「目立たない店でしたが、大黒やはびしっとスーツを着込んだお客さんでいつもいっぱいでした。また店の奥には坪庭があって、そこに仏像が鎮座していたのが印象的だった。スーツのお客さんたちは、店に来ると皆、おかみさんに言われて仏像を拝むんです。さらに、坪庭の奥には事務所があって、男性が2人ほど常駐していました。お客さんの中には野球ファンもいるので、プロ野球の話をしているうちに何となく彼らの職業が分かってきた。スーツ姿の客は全員が銀行員か証券マン。それも支店長とか部長といった役職者ばかりだったのです」
恵川が尾上の「表向きの顔」なら、大黒やは「本業」の投資ビジネスを行う場所だった。だが、彼女のやることはすべて神がかりである。毎週日曜日の夕刻には、坪庭に金融マンを集め、尾上は「行(ぎょう)」に入る。頃合いを見計らって証券マンが「〇×株はどうでしょうか?」と聞くと、彼女の口から「この株、上がるぞよ~」とか「売りじゃ」とご託宣が降りてくる。株をやらない江本氏にはピンとこないシーンだが、大黒やの中で行われていることは世間の常識からも大きく外れており、異様な世界だった。
「ある時などは、大黒やの事務所にNTT株が束になって積んであるのを見ました。100枚以上あったと思います。同社の株は86年に初めての売り出しがあって、翌年2月の上場後数カ月で株価が3倍近くまで上がった。当時、公募株は抽選になり、一般の人にはなかなか手に入りにくかったはず。それが事務所の机に山のように積んである。これには、さすがに驚きました」
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