ドラマ好き女性を虜にする「最愛」 郷愁と罪悪感を丁寧に描いた良作

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 TBS金曜22時枠は、不定期に胸の奥をきゅんとさせる。いわゆる色恋の胸キュンとは違う。切なさにうしろめたさを加えた感じ。何と表現したらいいか、「最愛」の特色を。役者も設定も内容も舞台もまったく異なるものの、「Nのために」や「リバース」と同じニオイがする。好きなニオイや。主題歌もすべて伸びとキレのある女性歌手がメロディアスに歌い上げ、感情移入を煽る、煽る。好きな音や。

 若かりし頃の過ちや罪の意識、封印してきた秘密を、大人になってからほじくり返される展開のサスペンス。甘酸っぱい青春時代は郷愁と色彩豊かな風景で、成人後の世知辛い現実は色のない乾いた東京。十数年の時を行き来しつつ、真相が明らかになっていく。勝手に「湊かなえ方式」と呼んできたが、今作はオリジナルだ。

 舞台は2006年の岐阜県(白川郷近辺)。大学陸上部で駅伝の選手だった松下洸平。学生寮を切り盛りするのは、光石研とその娘・吉高由里子。彼女の弟は頭部外傷が原因で、興奮すると記憶が飛ぶ厄介な症状を抱えている。東京で就職が内定している松下、東京の大学の薬学部に進学し、弟を治す薬を作りたい吉高。ふたりは互いに心を通わせ、恋仲になるはずだった。

 ところが、松下の大学の院生(朝井大智)の失踪事件と光石の死を機に、状況は一変。吉高は東京の大企業の社長で実母(薬師丸ひろ子)の元へ。松下は事件の余波で内定を取り消され、警察官の道へ。恋は成就せず、別々の人生を歩くことに。

 15年後、事件は突然動き始める。朝井が白骨死体で見つかり、さらにその父(酒向芳(さこうよし))も何者かに殺害される。警視庁捜査1課の刑事になった松下は、捜査線上にあがった吉高と再会。吉高は母の会社の傘下で、製薬事業を展開する社長に。傍らには企業法務の守護神で、吉高を公私ともに支える井浦新が。さらには姿を消していた吉高の弟(高橋文哉)も現れる。劇中、殺人事件の経緯は明らかになり、捜査1課も真相へと徐々に近づいていく。

 また、舞台装置として必須の敵意や悪意をもった人物も完備。吉高の躍進を快く思っていない専務の及川光博(興奮すると鼻血が出るのは何かの病?)や、敵意丸出しの兄・奥野瑛太も。捜査1課の精鋭(津田健次郎&佐久間由衣)も正義の味方のはずだが、なんだか憎たらしく思えてくるのだ。

 何がそんなに私の心をとらえるのか。たぶんこの3作品に法則があって、そこにぴったりハマる自分がいる。風景、郷愁、音といった五感を刺激する画作り、昔の秘密や罪が暴かれる残酷さ、その先の絶望。守りたい人を守りきれない(であろう)切ない展開が胸を突く。一言で表すなら「肌が合う」。制作陣の大半が女性という点でうっすら気づく。ドラマ好きな女が好むドラマを熟知したドラマ好きな女たちが丁寧に作っていると。ある意味、日曜劇場とは対極にある気もする。

 無駄に派手な推理合戦とか意表を突くどんでん返しを実は求めていない。恋心と家族愛、感情の行方を丁寧に描いてくれたら本望。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2021年11月25日号掲載

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