中国テニス選手の性暴力告発 3つの疑問から浮き彫りになる共産党幹部の権力闘争
忖度で行われた秘密工作
3つ目の「北京冬季五輪を前にして、なぜ中国共産党の対応は後手後手なのか」という疑問も、彭帥の投稿が習政権による“官製告発”だと考えれば説明がつく。
「張高麗は、第5代国家主席を務めた江沢民(95)を筆頭とする、いわゆる“上海閥”に属していました。基本的に上海閥は、習一派と対立関係にあります。張はかつて、習政権に対する“お目付役”として、江サイドから送られたと言われています。江一派である張のスキャンダルが、習にとって正念場である6中全会の直前に表沙汰になったという事実は、偶然ではないと見るべきでしょう」(同・石平氏)
習近平としては、何が何でも6中全会で歴史決議を採択させたい。そのためには「目の上のたんこぶ」である江一派を大人しくさせる必要がある。
「習近平一派は秘密警察を使い、中国共産党の上層部に関するスキャンダルを全て把握しています。今回、彭帥さんを使って告発させたのも、『我々はお前たちの“脛の傷”を知っているぞ』という江一派に対する恫喝と見ています。ただし、こうした秘密工作は習近平が直接指示するものではありません。秘密工作は普通、取り巻きが“忖度”して行うものですから」(同・石平氏)
前途は多難
最後の「中国共産党が後手後手に回っている」という疑問も、習近平一派が関与しているとなると説明がつく。
「国連が問題視したこともあり、やっと習近平は事態を把握したはずです。恐らく彼は激高しているでしょう。『なぜ、こんな余計なことをしたんだ』と取り巻きを叱りつけているに違いありません。解決を図ろうとしていますが、前途は多難です。彭帥さんを表舞台に完全復帰させる必要がありますが、世界中のメディアから質問を浴びせられます。まさか『中国共産党から助言されて性的被害を告発しました』と答えるわけにもいきません」(同・石平氏)
石平氏は「今回のスキャンダルを告発したのが、中国国内だけで有名な女優や歌手だったら、国際社会を揺るがす大問題にはならなかった可能性があります」と指摘する。
「中国共産党の幹部らは、プロテニス選手がこれほどの知名度を誇り、国際社会に影響力を持つか、夢にも思わなかったでしょう。欧米社会が人権や性的虐待に敏感であることにも鈍感すぎました。彼らにとってプロテニス選手は、利用すべき“党利党略のための駒”にすぎず、告発も単なる“下半身の醜聞”という位置づけだったのです。だからこそ党内部における権力闘争の一環として利用したのではないでしょうか。しかし、彼らは無知だったために、予想もしなかったしっぺ返しを食らいました。我々の常識は中国共産党の常識ではない。その点においても、今回の騒動は極めて重要なニュースだと言えます」
中国共産党の機関紙である人民日報系の環球時報の編集長は、彭帥が21日の朝に北京で開かれたイベントに参加したとする動画をTwitterに投稿した。中国共産党は沈静化に躍起だが、中国は人権のない陰謀国家であることが世界中に知れ渡ってしまったと言えるだろう。
[4/4ページ]