及び腰の韓国を米国は経済制裁で脅す 「西側経済圏」復活で「中国閉め出し」を図る
米外交界を激怒させた韓国次官
――文在寅政権はここに至っても米中二股が可能と考えているのでしょうか?
鈴置:米中間で動きが取れなくなって、思考停止に陥っているように見えます。それでますます、自らの墓穴を掘ることになったのです。
事件は11月15日、ワシントンで起きました。CSIS(戦略国際問題研究所)とコリア・ファウンデーションの共催で「ROK-U.S. Strategic Forum 2021: The Road Ahead after the Biden-Moon Summit」というタイトルのセミナーが開かれました。
基調演説した韓国外交部の崔鍾建(チェ・ジョンゴン)第1次官は「中国は韓国の戦略的パートナーだ」と規定したうえ、米国と日本を合わせたよりも貿易額の大きい中国との経済関係を毀損するつもりはない、と明言したのです。原文(一部略)は以下です。
・They’re our strategic partners. The trade volume of - trade volume of Korea-China is larger than our trade volume with the United States and Japan put together, and we make money out of it.
・We make big surplus out of it. And who enjoys the surplus down in 10 the market? Our citizens, ranging from the small to medium entrepreneurs to big, you know, conglomerates. We cannot ignore that.
崔鍾建第1次官の発言は米国の外交界を激怒させました。同盟国の米国が中国と対決姿勢を明確にした時です。ことに主戦場は経済。西側の経済圏を作って中国を追い出そうとしている時に、韓国から「その気はない」ときっぱり断られてしまったのですから。
韓国にも制裁を加えよ
米政府が管掌する放送局、VOAがさっそく崔鍾建発言を痛烈に非難しました。「米専門家ら『“韓中は戦略的パートナー”発言は不適切』」(11月20日、韓国語版・発言部分は英語でも表記)です。前文からして強烈です。
・ワシントンで韓国政府が中国との密接な関係をあまりに強調することに憂慮が膨らんでいます。米中対決の構図が深まる中、中国を「戦略的パートナー」と規定する韓国の外交当局者の発言が特に論議を呼んでいるのです。
まず、米国の専門家は「戦略的パートナー」との認識に対し「経済面ではそうだとしても、軍事・安保関係には適用できない」(K・マロリー[King Mallory]ランド研究所国際危機安保センター局長)と批判しました。
「中国が韓国などに対し経済的な圧迫を加えている。戦略的パートナーとは呼べない」(P・クローニン[Patrick Cronin]ハドソン研究所アジア太平洋安保議長)と、たしなめる向きもありました。
「中韓は経済的な関係が深い」との言い訳に関しても「かといって、中国の行き過ぎに対し声をあげられないわけではない。中国との経済的な関係が深いのは、他の国も同じなのだ」(E・リビア[Evans Revere]元国務副次官補)との指摘がありました。
もっとも強烈だったのは、K・カルダー(Kent E. Calder)ジョンズホプキンス大学東アジア研究所長の「韓国にとって中国との関係が良い方がいいのだろうが、問題は中韓の技術・工業製品の取引によって米国の安全保障上の利益が毀損しないかという点だ」との批判でした。
はっきりと「自分の利益を優先して米国の国益を侵すな」と警告したのです。そのうえで「特定の領域で第3者制裁を加える時代に再び向かうかもしれない」と、経済制裁を科す手だってあるのだぞと韓国を脅したのです。
「再び」というのは「対北朝鮮制裁を破るのなら、韓国も制裁対象にすべきである」との議論が高まったことがあったからです。それが今度は「対中排除網に参加しないなら」との文脈になったのです。
バイデン政権に溢れる「韓国にはうんざり」
――「制裁するぞ」と米国が言い出すほどに米韓関係は悪化している……。
鈴置:当然です。米国が経済的に中国を孤立させる作戦に出た今、韓国の「安保は米国に頼り、経済は中国に頼る」という姿勢は、米国の目にはとんでもない裏切りに映ります。リビア氏も「韓国が米中間でバランスを取りうる時代は終わった」と引導を渡しています。
両国ともに表面は取り繕っていますが、文在寅政権の間は関係がちらとでも改善することはないでしょう。米国は言うべきことは言ってこれ以上、韓国が中国側に行くことは防ぐ。「次」も反米政権にならないことに今は注力する、といった姿勢です。
だから、日本も「韓国との首脳会談を避ける日本は米国に叱られるぞ」といった韓国側の宣伝は無視しておけばいい。文在寅政権の外交が支離滅裂で、まともに相手にしてはいけないことは米国も分かっていますから。
11月16日に韓国の警察庁長官が竹島に上陸したことで、翌17日の日米韓の次官級会議の後の会見に日本が不参加を決めました。その結果、米国の国務副長官の単独会見になりました。
中央日報が「日本、ワシントンで米国のメンツつぶした…韓米日共同記者会見を蹴った理由」(11月18日、日本語版)と報じるなど、今回も韓国紙は「日本のせいで韓米日の協力体制が壊れた」ごとくに書いていますが、米国がそんな認識を持っているわけではありません。
韓国が日本との関係を敢えてこじらせることで「日米韓」の協力の枠組みに取り込まれないよう画策することは、米国もよく理解しています。
これまでは「慰安婦で謝らない日本とは手を組めない」と言い張ってきましたが、最近は「独島(竹島)の領有権を主張するから」を理由に変え始めています。
「慰安婦カード」はB・オバマ(Barack Obama)政権時代に、すでに米国からたしなめられています。叱ったのは、当時、国務次官で現在は国務副長官のW・シャーマン(Wendy Sherman)氏です。
「元慰安婦は今度は国務長官に抱きつくのか 米国の怒りを報じない韓国メディアの歪曲報道」をお読みいただくと分かりますが、バイデン政権にはシャーマン氏をはじめ、韓国にはうんざりした外交官が勢ぞろいしているのです。
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