日本の「家事道」を深めて世界に伝播させたい――高橋 ゆき(ベアーズ取締役副社長)【佐藤優の頂上対決】

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代行費用に補助金を

佐藤 わかりました。5年後、10年後はどういうビジョンを考えておられますか。

高橋 そもそも私は、家事代行という新しい産業をつくりたくて創業しました。ベアーズが日本で産声をあげたとき、今のように家事代行を知っている人はわずかでした。ここまで来るのにたくさんの方のお力をお借りしましたが、もっともありがたかったのは経済産業省のもとで調査をさせていただいたことです。7年前に都心に住む千組の家庭にアンケートを取ったら、家事代行を使ったことのある人がたったの2%。ところが、80%以上の人が使えるような世の中を望んでいるという結果だったんです。そこで、あらゆるご家庭が安心して利用できるように、経産省が第三者機関における家事代行サービス認証制度を作ってくださった。これによって、同業者がとても増えたんです。同業者が増えれば、それだけこのサービスが全国に広がります。現在、事業者認証を取った企業は11社で、広がる途中といえます。しかし、使いたい人が多いのに、なぜ2%の人しか使っていないのか。理由の一つは価格的に負担が大きいということでした。

佐藤 手軽に頼めるように始めた家事代行サービスですが、価格的にはまだ負担だと思う人が多いわけですね。ベビーシッターも夜間であれば1時間2500円ぐらいします。

高橋 家事が支援され、暮らしの困ったことが解決されると、家庭の幸せ度数は上がっていきます。そのための補助金が、行政から利用者側に出ていい時代ではないでしょうか。補助金ではなくても、家事代行の費用を税控除の対象にするとかね。

佐藤 子育て支援で、もしベビーシッター代が控除の対象になれば、利用者は飛躍的に増えるでしょう。

高橋 サポートという面では、子育てだけではなく介護に対しても、我々の存在は大きく貢献できます。

佐藤 今の介護保険制度は柔軟性に欠けていますから。

高橋 人の命の誕生から、命のお見送りまで、人生という長いスパンの中でご家庭の幸せ度数を上げていくためには、そのような補助金が必要です。サービスを受けられるバウチャー(引換券)を発行してもいいかもしれません。この5年以内に、いえ、3年ぐらいの間にシッターや家事代行業の利用者に、補助金やバウチャー、もしくは費用が税控除の対象になるようにもっていきたいですね。私たちは、シングルマザー、シングルファザーの助けになるだけではなく、食事の管理の面で高齢者の健康維持にも役立てます。何よりも孤独死がなくなるのではないでしょうか。ベアーズレディは全国にいますから、定期的に高齢者のお宅のインターホンを押して歩いて、例えば「佐藤さん、お元気ですか?」と声をかける。お返事がなければ、行政に連絡する。生活の安全や安心、地域の保護にもつながるかなと思っていて。

佐藤 なるほど。

高橋 5年以内には、私は担い手の職業地位をもっと向上させたい。国内だけではなく、わざわざ海外から日本の家庭をサポートしに来てくださる外国の方々にも通用するような、国際標準的な国家資格を創設したいと思っています。そのためにはテキストが必要でしょう。そういう意味でも、先ほどの「家事大学」を立ち上げたんです。その資格さえ持っていれば、フィリピンの方でもべトナムの方でも、現地でも日本でも活躍できる。または、日本の「家事道」が、これによって世界に伝播されていき、日本スタイルの素晴らしさが見直されていく。日本はものづくりで伸びてきましたけれど、これからは哲学や思想、サービスといったもので世界に影響を与えるのが日本の務めだと思っています。

佐藤 その国際標準化というのは非常に重要なことですね。

高橋 そして10年後になると、家事にロボットが活用されるかもしれません。ロボットと人の心、ぬくもりが一緒になってご家庭をサポートしていく世界が来るかもしれないと考えています。私としては、ロボットの開発も手がけていきたいですね。今から50年ぐらい前にセコムさんが有人のセキュリティーシステムを作った。それが機械警備というものに変わった。では、人がいらなくなったかというと、そうではありません。機械警備と人のぬくもりや正義感が家庭を守っています。同じようなイメージですね。

佐藤 今や都心部の戸建てに住んでいる人はセコムやALSOKなしの生活は考えられないですから。

高橋 昔はお水なんていうものは蛇口をひねって飲んでいたものだし、おにぎりは冷や飯を握ってアルミホイルに包んでいました。それが今では水はペットボトル、おにぎりもコンビニで200円ほどで買う。そういった意味では、時代はどんどん変化してきています。私たち自身のサービスもどんどん変化を遂げていきたいと思っています。

高橋ゆき(たかはしゆき) ベアーズ取締役副社長
1969年生まれ。IT企業、出版社勤務ののち香港の現地商社に入社。帰国後、99年に夫で社長の高橋健志氏とともに家事代行サービスの株式会社ベアーズを設立する。個人では「家事研究家」として活動し、2015年には家事大学を開設。16年のTBSドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で家事監修も手掛けた。

週刊新潮 2021年11月18日号掲載

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