日本の「家事道」を深めて世界に伝播させたい――高橋 ゆき(ベアーズ取締役副社長)【佐藤優の頂上対決】
ヒューマンタッチ
佐藤 ベアーズでは、掃除、洗濯といった家事代行の他にも、ハウスクリーニング、キッズ&ベビーシッター、高齢者支援などを手がけています。ベアーズの面白さというのは、家事をピンポイントで頼んだり、何日間だけお願いしたりとか、いろんなオーダーが可能なところです。
高橋 「暮らしのお困りごと」を全般的に扱っています。例えば、日常の掃除機がけや拭き掃除、買い物、お料理、お洗濯等を毎週利用されている方がいます。その一方で年末の大掃除の時期に、エアコンやレンジフードの分解洗浄を依頼されるなど、季節にあわせて利用される方もいます。そういう大がかりな清掃は、専門の部隊が出動します。キッズ&ベビーシッターという部門も創業時からあります。そこでは、例えばこんな仕事もしているんです。昔から音読の宿題がありますよね。今はお父さんもお母さんも忙しくて、お子さんの横にいて本を読むのに付き合ってあげることができない。ご両親に代わってベアーズレディが音読に付き合って、「今日はよくできたね」とチェックしてあげる。
佐藤 受動的な感じで横にいてくれる大人は子どもにとって重要です。
高橋 おっしゃる通りです。実は、ベアーズのこれからの務めというのは、特にぬくもりとかヒューマンタッチのところだと思っています。
佐藤 亡くなった私の母も最後10年ぐらいは独り暮らしでしたが、牛乳配達の代金を振り込みにしないで、あえて集金に来てもらって、集金のお兄ちゃんとよく話していました。
高橋 ベアーズもだいぶ前に“お話し相手代行”という商品も開発いたしました。カウンセラーとして“傾聴”の資格を持っているわけでは決してありません。ただ横にいてうなずいて共感をして「素晴らしいですね」と言うだけ。そういうサービスを求められる方も多いんですね。
佐藤 嫌な顔しないで、45分なり1時間なり付き合って話を聞いてあげるだけで全然違います。家族だと、親の話は「ふうん」と聞き流してしまう。これからはニーズが出てきますよ。
高橋 他にも面白いニーズがあります。今さら人に聞けないようなこと、例えば、煮物の作り方とか、おせち料理を作る方法を教えてほしいとか。サービスを提供するレディさんの横について、料理やお片付けを学ばれたりする方もいますね。
佐藤 ただ寄り添い方を間違えると共依存関係にもなりかねないので、そこは適当な距離をおく技術も必要でしょうね。
高橋 そうですね。一般的なお客様の9割ぐらいが、ベアーズをスポットではなくて定期的に利用しています。さらにそのうちの7割が不在宅中の利用です。鍵をお預かりして、ご家族の方がいらっしゃらない時に家事代行のサービスを行うので、そういった意味においては大きな心配はいらないと思います。
佐藤 この2年間はコロナ禍で混乱しましたが、現在、需要と供給の関係はどんな感じなのでしょうか。
高橋 昨年4月に1回目の緊急事態宣言が出たときには、私もどうなるかなと思ったんです。やはり3割ぐらいのお客様がベアーズのサービスを控えられましたね。それから4月、5月と、ステイホームが続きました。働いている女性たちも最初は「私にも家事をやる時間ができた」と思ったものの、そう長くは続かないわけです。家の中には、テレワーク中の旦那さんもいれば、休校中のお子さんもいてとなると、家事がどんどん増えて、手に負えなくなってくる。それで昨年9月の時点で、対前年比120%超えのお問い合わせをいただきました。ところが、以前とはお問い合わせの質が変わってきて、「暮らしの“困った”を助けてください」という言葉がしょっちゅう出てくるようになったんです。それで昨年10月より、弊社は「暮らしの“困った”を解決する暮らしのサポートカンパニーを目指します」と謳い始めました。
佐藤 それは興味深いですね。
高橋 お客様の困りごとを、一つ一つ一緒になって解決するパートナーになろうと決めて、ちょうど1年がたちました。例えば、怖くてなかなか外に出られないという方のために、調剤薬局に薬を取りに行く。でも、ただ取りに行くんじゃないんですよ。お買い物のついでに薬局に行って薬を受け取って、帰りの途中で書類を区役所に提出することもあります。さらに、もらってきた薬を毎日朝昼晩と飲む分ごとに小分けする作業もします。
佐藤 小分けも手間がかかりますから。
高橋 1年経ったら、「家事代行は特別な人の特別で贅沢なサービスではなくて、社会に必要とされるエッセンシャルワーカーだ」というお客様からのお便りまでいただけるようになりました。ですから、需要側の質が変わった。と同時に供給の仕方も、お困りごとを解決する会社へと変わってきました。
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