ニーズはあるはずなのに…テレビアニメ版「鬼滅の刃」無限列車編の視聴率が下がり続けるワケ

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 フジテレビで10月10日から放送されている「テレビアニメ版『鬼滅の刃』無限列車編」(日曜午後11時15分)の視聴率が下降の一途を辿っている。失速中だ。一方、やはり日曜の夜更けに放送されている日本テレビのドラマ「真犯人フラグ」(午後10時30分)の視聴率は批判をよそに底堅い。背景を探る(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)。

 テレビアニメ版「鬼滅の刃」の視聴率が下がり続けている。

■第1話(10月10日)世帯10.0%、個人全体5.7%
■第2話(10月17日)世帯8.0%、個人全体4.6%
■第3話(10月24日)世帯7.0%、個人全体4.0%
■第4話(11月7日)世帯6.4%、個人全体3.5%
■第5話(11月14日)世帯5.7%、個人全体3.1%

 第1話の視聴率は日曜午後11時15分からという時間帯を考えると驚異的と言えたが、第5話の数字は平凡と言わざるを得ない。

 放送時間が15分重なるTBS系「情熱大陸」(日曜午後11時)も11月14日に世帯5.2%、個人全体2.8%をマークしているからだ。

 視聴率下降の理由はいくつか考えられる。

(1)新作は第1話だけだから

 第1話は原作にもないオリジナルストリーだった。炎柱・煉獄杏寿郎が無限列車に乗り込むまでが描かれた。

 杏寿郎の勇敢さ、犠牲心、やさしさが浮き彫りになっており、視聴者を大いに喜ばせたようだ。SNSが大きく反応した。

 ストーリーのみならず、作画、3DCG、撮影のいずれも圧巻だった。さすがは制作能力の高さに定評のあるufotable社の作品と思わせた。

 一方、第2話から無限列車編のラストである第7話までは説明するのが少し難しい。新作とは言いがたいが、旧作でもないからである。

 第2話以降を「劇場版『無限列車編』をテレビアニメ化しただけ」と素っ気ない表現をする人もいるし、全く逆に「『鬼滅の刃』の完全新作」と言うファンもいる。

 完全新作という表現はさすがにオーバーである気がするが、劇場版「無限列車編」をブツ切りにして再放送しているわけでもない。

 テレビアニメ版は劇場版をデリケートに再編集したものだ。第2話から第7話には、約70カットの新作追加映像と新規追加BGMなどが織り込まれる。

 とはいえ、「新作追加映像と新規追加BGMのために見る気はしない」と考える人も少なくないのではないか。他局にも「この形態でよくぞ放送した」と皮肉る声がある。

 なにしろ劇場版「無限列車編」はフジが9月25日に放送したばかり。しかも視聴率は世帯21.4%、個人全体15.7%、コア視聴率(13~49歳)も20%近くに達したから、多くの人が観てしまった直後なのである。

 熱狂的ファンはテレビアニメ版も観て、新作追加映像を堪能するに違いない。半面、コアなファンでない人の多くは劇場版だけで満足するのではないか。

(2)放送時間帯が悪い

 日曜の夜は翌日から学校、仕事があるので、早く就寝する人が少なくないはず。

 それでも日曜午後11時15分からの放送となった理由はいろいろと考えられるが、一番大きかったのは調整の難しさだろう。

 フジ系列26局でフルネットするだけでなく、非系列の4局(TOKYO MX、BS11、群馬テレビ、とちぎテレビ)とCSのアニメチャンネル2局での放送もあるからだ。

 TOKYO MXなど4局は2019年4月から第1期テレビアニメ(「竈門炭治郎 立志編」)を放送し、「鬼滅の刃」を大ヒット作に育てた。その貢献があるからアニプレックス、集英社、ufotableによる制作委員会は大切にする。

 一方、フジが「竈門炭治郎 立志編」の特別編集版を5回にわたって放送したのは今年9月で、TOKYO MXなどから遅れること約2年。フジの立場はあくまで新規参入組なのだ。

 おまけに27の動画サイトによって配信されるのだから、フジは放送時間帯を自由にしにくい。

 ちなみに最新(11月1日~同7日)のタイムシフト視聴率は世帯8.1%。やはり放送時間帯が影響しているようで、リアルタイム視聴率を上回っている。

(3)ほかでも容易に観られてしまう

 サッカーW杯などのキラーコンテンツの視聴率を高めるには放送の独占化が求められる。どこでも簡単に観られてしまってはコンテンツの希少価値が落ちてしまう。

 テレビアニメ版「鬼滅の刃」の場合はどうかというと、簡単に観られる部類。全国どこでも無料で観られるBS11や利用料が安価なCS、さらに27の動画サイトで観られてしまうのだから。

 とはいえ、フジにはどうにもならない。フジの中村百合子編成部長(52)は9月6日にオンラインでの10月改編説明会でこう発言したという。

「私たちは作品をお借りしながらの放送です」

 立場が弱いのである。

 一方、放送権を取り仕切っているソニー傘下のアニプレックスはやり方がうまい。

 第1期テレビアニメの放送では在京キー局の手を借りなかったが、地方局など地上波20局と組み、さらにBS11やCSとも連携することで、全国津々浦々に「鬼滅の刃」を届けた。

 現在の第2期もフジに頭を下げることなくフジ系列での地上波全国放送を実現させた。主導権を握っているのはアニプレックスだ。

 半面、今後の劇場版展開やキャラクターグッズ販売などを考えると、アニプレックスなど3社もフジの視聴率低下は黙って見ていられないはずだ。

(4)ブームが去りつつある

 そんな声もあるが、これは考えにくい。少なくとも潜在的なニーズは衰えていないと見る。

 家族愛から人間の業まで描いた原作は奥深く、その単行本全23巻の累計発行部数が1億5000万部を突破したのも不思議ではない。

 また昨年10月に公開された劇場版「無限列車編」は国内興収が約403億円に達し、史上最高記録を塗り替えた。これほどの動員は一時的なブームでは実現し得ないはず。

 では、何が視聴率浮上のカギを握るのかというと、それは次の遊郭編にほかならないだろう――。

 12月5日に始まる遊郭編はすべて新作。第1話は1時間スペシャルとなる。

 無限列車編の後の物語で、主人公・竈門炭治郎ら鬼殺隊の隊士たちが、鬼が潜む遊郭に潜入任務を行う。だから遊郭編だ。

 新作なので見る側に既視感が生じる怖れはない。視聴率の驚異的なV字回復もあるはず。

 逆に、視聴率が浮上しなかったら、放送時間帯やプラットホームの多さなどの戦略にミスがあると思わざるを得ない。

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