侍ジャパン監督 栗山英樹氏が最有力候補に違和感 大谷翔平を招集という甘い考え
日本球界の悲観的な現実
日本の野球界はいま過去にない危機に直面している。
プロ野球も高校野球も依然人気を保っているように見えるが、内側を少し覗けば、悲観的な現実が山ほど見えてくる。何しろ、野球を始める少年たちが激減している。少年野球の選手不足は深刻だ。中学の野球部は、指導者も部員も少ないために廃部の流れが加速している。高校野球も甲子園は相変わらず高い人気のようだが、全国の参加校は漸減し、部員数は年々減り続けている。数年前には16万人いた部員が、今年は13万人台になった。激減するジュニアの野球人口を考えれば、近い将来、高校球児が10万人を割るのも時間の問題ではないか。
そんな中、野球界をリードする役割を担う《侍ジャパン》の監督には、求心力があり、多くの国民を魅了し、理屈抜きに野球を応援したい、野球をやりたいと思わせてくれる人材が適任ではないのだろうか?
栗山英樹氏はその度量を持ち、そのミッションを遂行果してくれる適任者なのか?
勝つことだけが侍ジャパンの任務ではない。勝つこと、そして人々を魅了すること。
「栗山以外にいない」とみんなが思っている、「賛同だ」と言うなら、それはいかに野球ファンが日本代表を軽視しているかを象徴しているように感じる。「栗山くらいでいいんじゃない?」と言ったら栗山氏にも失礼だが、私にはそう感じられる。
11月15日に行われた大谷翔平選手の帰国記者会見を思い出してほしい。
日本ハムの先輩にあたる岩本勉氏がハイテンションで笑いに持ち込もうと試みたが、大谷はまったく動じず、他の質問者に答えるのと同様に淡々と対応した。
先輩だろうが、おそらく面識のある相手だろうが、かつての地元メディアの記者だろうが、大谷はほとんど表情を変えず、同じような対応に努めていた。むしろ、そういう縁故を持ち込むやりかたを拒む姿勢を見せたようにも感じられた。その意味で、「栗山監督なら大谷招聘のパイプ役になれる」という見方は甘い。むしろマイナスではないかと推察する。
また、「来季外野を守る機会を増やしたいか」と問われた時には、「監督というよりGMの判断」と、日本と違うメジャー・リーグのシステムをさりげなく伝えた。日本の野球ファンの多くは、選手起用の実権のすべてを監督が握っていると思っているが、メジャーでは違う。現場の人事を司る最高責任者はGMであって、GMが編成した戦力で戦うのがMLBだ。その発想を当てはめるなら、「恩人である栗山監督の頼みなら、きっと大谷は応じてくれる」と考えるのはあまりに古いし、ビジネスのスケールを無視した発想。大谷が日本代表に入るかどうかは、大谷の一存では決められない。まして栗山と大谷のホットラインで決まるようなレベルではないことを日本の野球界もファンも認識すべきだろう。
ケガなどのアクシデントがなければ、次のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)が開催される2023年には間違いなく年俸数十億円になるだろうスーパースター・大谷翔平が侍ジャパンの一員としてWBCに参戦するかどうかは、もちろん大谷本人の意志が先にあるだろうし、そして、球団とMLB選手会の意向も大きく影響する。いずれにしても、正式に決めるのは日本代表の然るべき立場の人物と大谷の代理人、前提としてWBCとMLB選手会との合意があってこそ実現できることだろう。
大谷を勧誘するのは侍ジャパン監督の仕事ではない。もし栗山氏に本当にそれだけの影響力があるなら、監督ではなく、日本代表GMか交渉人に就任してもらえばいいことだ。
栗山氏には国際的な経験がほとんどない。サッカーに例えるなら、Jリーグでの選手経験と指導経験があるだけだ。
すでにNPBの監督も12球団中4球団がMLB経験者になった。日本代表監督の候補にリストに、MLB経験者を挙げるのは自然なことだろう。
なぜ、侍ジャパン監督候補に、松井秀喜、イチロー、野茂英雄、上原浩治、吉井理人、小宮山悟といった名前が挙がらないのか不思議だ。MLB経験者以外にも、落合博満、工藤公康、秋山幸二ら、日本一を経験した元監督たちがいるではないか。もちろん、いずれも難しそうなイメージはある。すでに水面下で打診し、断られた経緯があるのかもしれない。しかしそれでも、まずは「この人にやってほしい!」と多くの野球ファンが望む人材に白羽の矢を立て、ファン全員でラブコールを送る機運を高めてもいいのではないだろうか。
やってくれそうだから、話が楽に通じそうだから、そんな安易な理由で監督を選んでいるようでは、野球の未来はますます暗い。
[2/2ページ]