【カムカムエヴリバディ】3週目で早くも見せ場…安子と稔の恋にみる藤本脚本の奥深さ
NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(月~土曜午前8時)が放送開始から3週目で早くも序盤のクライマックスを迎えた。ヒロインで和菓子屋の娘・橘安子(上白石萌音、23)と、繊維会社の御曹司・雉真稔(松村北斗、26)の恋が決着する。物語はスピーディーに展開しているものの、見応え満載。向田邦子賞作家・藤本有紀さん(53)の脚本が光る。
「カムカムエヴリバディ」は見せ場のつくり方が抜群にうまい。その上、進行がスピーディーだから、まだ放送開始から3週目とは思えないくらい。
安子は高等小学校を出てから岡山市内にある家業の和菓子店「たちばな」を手伝っていた。交際相手は大阪商科大予科(現・大阪市立大)に通う稔。やはり同市内に本社のある有力企業「雉真繊維」の跡取り息子だった。
2人は強く惹かれ合い、文通など清らかな付き合いをしていた。だが、稔の父親で雉真繊維社長の千吉(段田安則、64)と母親の美都里(YOU、57)は家格の違いなどから交際に猛反対し、仲を引き裂こうとする。一途に稔を思う安子を思うと、腹が立って仕方のない両親だ。半面、そう思わせるのも脚本のうまさにほかならない。
第12話で美都里は「たちばな」に和菓子を注文した。安子は稔と会えるかも知れないと思い、胸をときめかせながら、雉真家へ向かって自転車を走らせる。
ところが、門前で待っていたのは仏頂面をした美都里。和菓子は受け取らず、代金だけ払い、「暮らしの足しにでもして頂戴」と言い放つ。物を売る仕事をする者にとって、これほどの侮辱はない。しかも美都里は「2度と稔に会わないで」と高飛車に命じる。安子はうちひしがれた。
稔にも不甲斐ない面があった。事の次第を知り、美都里に対しては激怒するが、千吉には説き伏せられてしまう。
千吉から「そこまで言うなら、おまえの好きにせい。その代わり雉真の家を出ろ!」と言われた途端、黙り込んでしまった。千吉は稔と銀行頭取の娘を結婚させ、「雉真繊維」の発展に利用しようとしていた。
一方、安子は落ち込むばかり。心配した父親・金太(甲本雅裕、56)が、「たちばな」をのぞき込んでいた稔を見つけ、こう頼み込む。
「会うてやってください。それが一時、安子を苦しめることになっても、どうか安子に会うて話をしてやってください。お願いします」(金太)
哀願だった。金太も一時、安子と砂糖会社の次男との政略結婚を目論んだことがあったものの、最後に望んだのはやはり娘の幸せ。年ごろの娘を持つ男親の胸には特に刺さる場面だったはずだ。
子供の結婚を家のために利用しようとする親は今もいる。一方で、なんとか子供の望みをかなえてやろうとする親も。この物語は安子が生まれ、ラジオ放送が始まった1925年から始まっているが、100年程度では人の根元的な部分はそう変わらない。だから身近に感じられる。その上、脚本が出色だから、引き込まれる。
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