機能不全家族に育った四十路男 不倫を繰り返し、自分の家庭も壊して初めて分かった“呪い”
“家庭”を持ったことを呪った
結婚生活は妻の実家近くで始まった。長女が生まれ、3年後には双子の男の子が生まれた。何かあれば妻の母親が手伝いに来てくれるので、知晴さんとしては安心だったから、一心に仕事に打ち込んだ。「大卒にバカにされたくなくて」、知識と技術をひたすら自分にたたき込んだという。真由美さんは産休と育休を使いながらも、双子の男の子が1歳になる前に仕事に復帰した。
「正直に言うと、家族は愛おしかったけど、家庭はうっとうしかった。子どもはかわいいけど、お宮参りとかお食い初めとか、どうでもいいような行事が多いじゃないですか。そういうのが嫌いなんですよね。しかも僕は毎日ラーメンでもいいような味覚しかもってない。ごはんと買ってきた惣菜でいいだろうと思うけど、真由美は忙しいのに自分でおかずを作る。日々が消耗されていくような気がして、少し困惑していました」
結局は、と彼はつぶやく。
「僕は家庭には向いていなかったんです」
子どもはかわいかったが、泣き始めたら逃げたくなる。長女の三歳のお祝いの日、無断で外出し真由美さんと彼女の両親に怒られたとき、つくづく“家庭”を持ったことを呪った。それは自分が育った家庭への恨みでもあった。
「当時は暇があるとパチンコ屋や雀荘に入り浸ってましたね。真由美はなんとか僕が家庭になじめるようにいろいろ工夫をしてくれたんです。詳しくは言わなかったけど、僕に家庭的なトラウマがあることはわかっていたみたい。家族5人で出かけたり、僕の誕生日には家族でパーティをしてくれたり。だけどやっぱりなかなか家庭になじめない。真由美に『家族のことは愛している。だけど家庭が重い』と言ったこともあります。人間として何かが欠如していると自分でも思っていました。真由美は無理しなくていい、できることだけしてくれればいいと言ってくれて。彼女の優しさに泣けましたね」
そして不倫を繰り返すように…
それなのに、どんどん現実逃避の欲求が強くなっていく。30代に入るころには夫が単身赴任している人妻と懇意になった。
「週末、どうしても彼女に会いたいのに出かける口実がない。子どもを公園で遊ばせてくると言って、双子を連れて彼女の家に行ったことがあります。ああ、そういえば自分もオヤジにこうやって連れて行かれたことがあったなと思い出して、暗澹たる気分になりました。オレは何をやってるんだ、呪われた家庭を再現したいのか、と。家庭をもつ資格なんてなかったんだ。どうして家庭を持ってしまったのか。後悔ばかりしていました」
それからも不倫を繰り返した。好みの女性がいると、独身既婚を問わずに口説いた。もともと結婚前につきあったのは妻以外、たったひとりしかいなかったから、恋愛への興味と欲求が一気に押し寄せたのかもしれない。
「オレはダメなやつだ、何をやっているんだと思いながらも、恋愛にしか逃げ場がなかった。あるときバーで知り合った女性を口説いていたら、『あなたは私がほしいわけじゃないでしょ。何か別のものに飢えているように見える』と言われたんですよ。それは心にグサッときましたね」
グサッとくると同時に、彼はその女性に惹かれた。この人こそ、自分が求めていた女性だ、この人と一緒にいれば運命が変わるとさえ思ったという。
「でもその彼女は結局、つきあってはくれなかった。ただ、一時期は彼女を追い回すようなことをしてしまいました。迷惑だからとそのバーも出禁になった。そしてあるとき、彼女が警察に相談に行ったらしく警告を受けました。そこで諄々と説得されて、自分の人生がおかしな方向に行っていると気づいたんです」
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