機能不全家族に育った四十路男 不倫を繰り返し、自分の家庭も壊して初めて分かった“呪い”

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高校を出て専門学校へ

 そんなある日、母が大学を出て会社を継いでほしいと言い出した。彼はここぞとばかりにきっぱりと拒否した。

「気持ちがよかったですね。『高校を出たら専門学校に行く。この家とは関係のない人間になる』と言ってやったんです。母は弟も妹もいますし、僕はひとりっ子だけど甥や姪はたくさんいたので、誰かが継げばいいだろうと思っていました。でも母としては僕に継がせたかったんでしょう。ずいぶん引き止められましたし、『継いでくれるなら、仕事をしなくてもいいから』とまで言われました。それって肩書きだけつけて実質、仕事を与えていない父と同じ身分になれということでしょう。そのとき、父も哀れな立場なんだなと思った記憶はあります」

 そのころ祖父にも実は愛人がいたとか、その間にできた子供の認知を求めて裁判を起こされているとか、さまざまな問題が吉岡家に降りかかっていた。すべてが嫌になった彼は、宣言通り高校を卒業すると専門学校に入って家を出た。

「僕名義の預金がかなりありましたから、そのお金でアパートを借りました。保証人は工場長です。そのときは晴れがましい気持ちだったんですけど……」

飲み会で出会った妻

 専門学校には3年間通い、エンジニアとして働き始めた。卒業して2年後に学生時代の友人と再会したのをきっかけに、知り合いも含めた飲み会をすることになった。その場に友人が連れてきたのが真由美さんだった。

「高校を出てからの5年間、いろいろあったんですよ。祖父母と工場長が亡くなって、その影響もあったのかな、両親はとうとう離婚。その後、父は行方不明になりました。一気に崩壊した家族の様子を見ていたら、急に心のよりどころがほしくなった。自分が結婚すればいいんだと思いました。そんなときに真由美と出会ったんです」

 感じのいい女性だった。それだけで彼は「この人と結婚する」と決め、その日から猛烈にアプローチした。まだ収入も低いけど、「努力していいエンジニアになるから」と口説きまくった。そのかいあってつきあえることになったという。

「避妊するふりをして避妊しなかったこともあって、半年後には無事に妊娠(笑)。結婚できました」

 そうまでしても彼は家庭がほしかったのだろう。

 母親には結婚することだけを告げた。母は「ひとり息子が結婚するのだから、それなりの式を挙げなければ」と言ったが、彼は無視した。とはいえ、真由美さんにも家族はいる。貸衣装でドレスを借りて、真由美さんの両親と弟だけを呼び、写真屋さんで撮影したあと食事をした。

「僕は天涯孤独だと言いたかったけど、それだと真由美の両親が心配する。だから親は小さな商店を営んでいるけど離婚しているし、父は行方不明だし、もう縁がないんですと押し切りました。真由美にも一家のどろどろは伝えないまま結婚しました」

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