ノイズキャンセリングでリスクが増加 電車内の凶悪犯罪から身を護るために必要なことは
脳内シミュレーションの重要性
では、人々の命を弄ぶ凶悪犯から、我が身を護る術はないのだろうか。
再び佐々木氏に聞くと、
「あらゆる手段を使いテロを起こそうとする凶悪犯に対しては、どれだけ対策を講じても防ぎようがありません。ならば我々がすべきは、いざ事件に遭遇した際にどう行動するのかを頭の中でシミュレーションしておくこと。電車に乗ったら、乗務員に異常を知らせる『非常通報ボタン』や、閉じ込められても手動で扉を開けられる『非常用ドアコック』が、車内のどこに備え付けられているかを把握しておくことが大切です」
これらの“命綱”は同じ鉄道会社でも路線や車両のタイプ毎に異なるから、平時から車内に入ったら周囲をよく観察しておきたい。
冒頭の事件で被害に遭ったJR九州の広報担当者も、
「車内で身の危険を感じたら『非常ブザー』を鳴らして乗務員に知らせて下さい。新幹線のシートの座面は取り外しが可能で、凶器を突き付けられたら盾のようにして身を護ることもできます。状況によっては鍵のかかるトイレに逃げ込むなど、臨機応変に対応していただければと思います」
通勤電車の長いシートも非常時は外せて担架や車外脱出用の梯子代わりになる。
加えて、無差別事件の犯人は、自分より力の弱い女性や子供、老人を襲う傾向にあるとされており、周囲に無警戒ならば一層リスクは高まるといえよう。
ノイズキャンセリングのリスク
実際、前述した小田急線の事件では、最初に被害に遭った女子大生はスマホに目を奪われていて、刺されるまで犯人の存在に気づかなかったと述べている。事件後に容疑者は“電車内は皆が油断しているから大量に人を殺せると思った”とまで言い放ったのである。
改めて板橋氏に聞くと、
「電車内では周囲に不審者がいないか見渡すなど、最低限の注意を払い続けることが必要です。もし凶悪犯に遭遇してしまったら、早く逃げることしか対策はないと思った方がいいでしょう。そうした意味では、移動中にスマホで音楽やゲームを楽しむためにノイズキャンセリング機能のあるイヤホンを装着するのはリスクが高い。たった10秒でも異変に気づくのが遅れれば、逃げるタイミングを逸して生死にかかわる事態に繋がってしまいます」
死神は我々の心の隙を狙っていると肝に銘じたい。
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