貫地谷しほりと八嶋智人の掛け合いが笑える「顔だけ先生」 社会への問題意識を真摯に描く一面も

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「息が合った掛け合い」とは、本当に呼吸や間合いが一体化している。貫地谷しほりと八嶋智人が出演する「顔だけ先生」で再確認した。

 貫地谷が演じるのは私立高校の教師。元来真面目な性質で、学年主任を任されたがために仕事は山積、ストレスと疲弊をため込む毎日。食事すら面倒臭く、勢い余って生ハムを原木買いするような女だ。唯一の潤いは異国のマッチョなスター・ラチャ様。部屋はラチャ様だらけだ。同僚の三浦涼介は貫地谷の親友で、何でも話せる心の拠り所に。

 教頭の八嶋は、勃発するトラブルや問題をとにかく貫地谷に丸投げ。面倒事は迅速かつ巧妙に投げて、保身に走る。走・逃・守の三拍子揃った事なかれ主義。

 もうね、このふたりの掛け合いが見事で。コメディに振り切った動きにはキレがあるし、間合いも呼吸も絶妙。「上しか見ていない教頭&板挟みになる真面目な教員」なんて、何百万回も描かれてきたはずなのに、このふたりは「可笑しさ」の完璧な共犯者だったから。

 入口はこのコンビだが、中身も秀逸。ちゃんと生徒が主体性をもって描かれる学園モノ。悩んで考えて自分なりの結論を出すのは生徒自身。まともな大人が描きたがる突飛な教育論の押し付けでは終わらないのだ。

 もちろんそのきっかけになるのが文字通り、顔だけ先生の神尾楓珠(ふうじゅ)。貫地谷がラチャ様に激似というだけで顔採用した非常勤講師だ。出勤前に川下り、住居を持たないアドレスホッパー、自己流の日本史解説は生徒に希望や期待や誤解を進呈。

 常識をはるかに超えた自由人の神尾は、生徒たちの心の隙間に入るのがうまい。ただし、名言も吐かないし、心救われる助言も一切しない。神尾は自分の趣味や関心事を追求しようと行動するのみ。それが結果的に功を奏する。顔採用の副効用。

 貫地谷を無駄にキュンとさせたり、猛烈な勢いで潤してくる神尾の絵面も可笑しい。あ、もちろんそこに恋愛感情はなくてラチャ様似という話ね。この諦め具合も貫地谷ならではの技だ。

 私立高校職員室のうっすら倦怠感は和田聰宏(そうこう)、笠原秀幸、阿部華也子で固める。生徒たちが抱える諸問題も汗と涙で誤魔化さずに、きっちり落とし込む点もよい。

 例えば、外資に牛耳られた日本企業勤務の父親から「アメリカの大学へ行って、GAFAに就職しろ」と言われる女子(田幡妃菜)。本当はアフリカで野生動物の保護活動が夢。ある日突然坊主頭にして抵抗を試みる。

 また、外見で差別されてきた園芸部男子(長谷川慎)は、文化祭の男前コンテストに出場して周囲を見返す決意をする。園芸部の仲間と仲違いしたが、独自の筋トレで男前に変身。ところが、ルッキズムを助長すると反対の声が上がり、校内でも意見の対立が生じる。

「ただ生きるのが難しい」と貧困の実情を吐露したのは櫻井海音(かいと)。少々トリッキーな仕掛けにポップな抵抗運動で表現したが、若者の貧困という切実な問題を真摯に描いた回だったと思う。

 キャスティングも描き方もセンスがいい。「顔だけ」の人を見る目が変わるかも。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2021年11月18日号掲載

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