【袴田事件と世界一の姉】弁護団も驚愕した「巖さん」の釈放 急きょテレビ局が確保したホテルへ

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裁判長が「捜査機関の捏造」と明言

 ついに、第2次再審請求(2008年4月)が実った。静岡地裁(刑事部=村山浩昭裁判長、大村陽一裁判官、満田智彦裁判官)が再審開始を決定したのだ。

 請求審の焦点として弁護団が求めていたDNA鑑定について、筑波大学の本田克也教授(法医学)は「(犯行時に着ていたとされた)5点の衣類の血痕と袴田さんの血液のDNAは一致しない」という鑑定を出していた。村山裁判長は、このDNA鑑定結果を「無罪を言い渡すべき明らかな証拠に該当する」と決定理由の中で評価した。

 判決文は「死刑確定判決が最も重視した5点の衣類が袴田の犯人性を基礎づけるものではないことが明らかになったばかりか、捏造されたものではないか、との疑いを相当程度生じさせるものだ」とし、さらに「各味噌漬け実験の結果や、5点の着衣の発見経緯などに捏造を再確認させる証拠や、事情が複数存在するのだから再審審判で袴田に無罪判決が下される蓋然性がある」とした。

 加えて、巖さんについて「捜査機関によって捏造された疑いのある証拠によって有罪とされ、死刑の恐怖の下で拘束されてきた」とし、「これ以上拘束を続けることは耐え難いほど正義に反する」として拘置停止を認めたのだ。村山裁判長は完全に捜査機関の捏造を認めている。検察側にとっては驚天動地の衝撃的な決定だった。連載第1回でも記したが、過去の再審決定でも「捏造」などという大胆な言葉を使った裁判官などいない。ましてや「捜査機関の捏造」と明記した決定は過去に例がない。

 巖さんの姉・袴田ひで子さん(88)は最近、筆者に「弁護団から『捏造だと言っては駄目』と言われていたし、私も捏造だとかでっち上げだなんて言わないようにしていました。ところが村山裁判長が捏造とはっきり言ったもんだから驚きましたね」と話していた。

 これによって即刻、巖さんは釈放されることになった。無罪が決定する前の再審開始決定の段階で死刑囚が釈放されたのは初めてのことだ。再審開始決定では「刑の執行停止」とされているが、それは絞首刑の執行停止ということであり、拘置自体は継続されるという解釈が一般だったからだ。

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