フィリピン副大統領が「選挙で票の売買はOK」と発言 パッキャオも既に1人1000ペソ配った?

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「パッキャオ候補」にも買収疑惑が

 副大統領がわざわざこんな発言をするほどの選挙事情とはいかなるものか。実は来年の次期大統領選をめぐっても、すでに買収をめぐる報告がいくつかある。

 たとえば、日本でもおなじみの元ボクサー、マニー・パッキャオ上院議員。フィリピン最大与党「ラバン党」所属の彼は、「ブハイ党」のジョセリート・アティエンザ下院議員を副大統領候補としてペアを組み、大統領選に立候補した。6階級制覇を成し遂げたパッキャオ氏は、フィリピンでは国民的英雄であり、有力候補者のひとりである。

 そんなパッキャオ氏の問題行為は、10月15日、ルソン島のマニラ首都圏南部にあるバタンガス州バラヤンを訪れた際のものだ。7月に起きたタール火山噴火の被災者約7000人を見舞う意図で、米パックなどの支援物資と共に現金1人1000ペソ(約2250円)を配った。これが買収ではないか、といわれているのだ。

 本人は票の買収が目的ではないと疑いを否定したうえで、

「選挙の時だけ金を配るのではなく、政治家であれば常に国民を助ける必要がある。有権者はたとえ貧しくても誰が本ものであるかを見分ける力をもっている」

 と述べた。

 このほか、フィリピン中央銀行が10月25日にセブ市で8万7000ペソ(約19万6000円)相当の偽札を押収したと地元メディアが伝えた。票買収には偽造紙幣が使われるケースがあることも表沙汰になっており、この偽札も大統領選などの票の買収目的に偽造されたと当局はみている。

発言は賛否両論…だがこんな事情も

 こうした現状のフィリピンで、レニー副大統領の発言はどう受け止められたのか。フィリピン選挙管理委員会のジェームズ・ヒメネス報道官は、10月27日、「票の買収はれっきとした犯罪である」と発言。禁固1年から6年の判決を受ける可能性があることを国民に訴え、現金を受け取らないよう求めた。デラ・ローサ上院議員も「国民を犯罪者にするな」と副大統領の発言を批判し「票買収の現金を受け取ったらすぐに警察に通報するように」と国民に呼びかけた。

 一方で同じく大統領選に立候補しているマニラ市のイスコ・モレノ市長は「たとえ国民が(票買収目的の)現金を受け取ったとしてもそれを責めることはできない。国民は賢く、誰が本もので誰が偽者かを知っている。国民を過小評価してはならない」とレニー・ロブレド副大統領を援護している。このイスコ市長も大統領選の立候補者のひとりで、元は貧民街出身の俳優。清廉潔白な市長として国民の人気も高く、レニー副大統領と同じく「反ドゥテルテ大統領」の立場だ。そんな“クリーン”な人物が、やはり買収容認派なのだ。

 もっとも、レニー副大統領もイスコ市長も、選挙制度を破壊しようという目的があるわけではもちろん、ない。買収される側からしてみれば、現金を受け取った以上、その候補者に投票しないと後で問題になるのではないかとの恐れがあるわけだが、その辺もレニー副大統領はわきまえており、「誰が誰に投票したかを知ることは不可能なので、それを心配することはない」と意中の候補者への投票をきちんと呼びかけているのだ。

 発言の背景に、社会事情もあることを忘れてはならない。もともと貧困格差が激しいフィリピンだが、折からのコロナ禍で失業者はさらに増加し、時短や自宅待機などによる収入減も大きな悪影響を与えている。生活苦に喘ぐ人々にしてみれば、“支援”を目的で配られる現金の受け取りを拒むことは難しく、それゆえに「もらえるものならなんでももらってよい」とレニー副大統領やイスコ市長は呼びかけているわけだ。そして彼らは貧困層を中心に大きな支持を得てもいる。

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