落合博満曰く「トライアウトは宝の山」 野球人生の崖っぷちから這い上がった奇跡の3選手

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“鯉だけキラー”の称号

 一芸に秀でた選手をチームの足りない部分に生かす中日の“宝探し”は、翌14年も実を結ぶ。11月9日に行われたトライアウトで、落合GMのメガネに叶ったのは、オリックスを戦力外になった左腕・八木智哉だった。

 日本ハム時代の06年に12勝を挙げ、新人王を獲得したが、オリックス移籍後は2年間1勝もできなかった。だが、希少な左サイドであることに加え、八木はトライアウトでも最速140キロをマーク。打者4人を完璧に抑えていた。

 左の中継ぎ陣が手薄だった中日が名乗りを挙げ、ロッテとの争奪戦を制して獲得。オファーがなければ、海外での現役続行も考えていた八木も「戦力外になって拾ってもらった。自分は野球でしか感謝を表すことができないので、結果で恩返しをしたい」と闘志を新たにした。

 そして翌年、八木は“不思議な存在感”で復活を遂げる。シーズン4勝のすべてが広島戦。3勝目を挙げた8月18日の時点で、対広島戦の防御率は0.60とエース級だった。

 ところが、広島以外のチームには防御率11.34と散々。谷繫元信兼任監督も「(広島戦は)安定感抜群だな。理由はわからないけど」と苦笑し、広島戦に合わせて先発で起用した。

 同年の広島は、メジャーから復帰の黒田博樹、NPB最終年の前田健太、ジョンソンの三本柱がいずれも八木と投げ合って敗れ(4敗中黒田は2敗、前田とジョンソンは各1敗)、3位・阪神に0.5ゲーム差の4位で3年連続CS進出を逃したことから、「トライアウトで八木を獲っておけば……」と鯉党を嘆かせた。

 かくして、“鯉だけキラー”の称号を得た八木は、現役最後の3年間を中日で全う。現在は中日のスカウトとして活躍中。こんな合縁奇縁も、トライアウトならではの妙味だろう。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮取材班編集

2021年11月14日掲載

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