違法残業の「小山ロール」 著書で検証、パティシエ「小山進氏」も“やりがい搾取”された修行時代
人材育成か、使い捨てか
まず、改めてブラック企業の定義を見ておこう。一般的には「採用した若手人材を育成する考えがなく、人件費の安いうちに使い潰す企業」と説明している。
「例えば野村証券やリクルートといった企業でも、長時間残業や過重なノルマが問題になったことがあります。しかし、2社はブラック企業と言えないところもあります。まず、低賃金ではありません。更に両社は、脱サラ組を含め優秀な人材を輩出しています。企業風土に問題があったにせよ、両社が大卒の新人を育て、一人前の社会人にしようと考えていたことまでは否定できません」(同・記者)
正真正銘のブラック企業は、人材を育てるという考えがない。目標は「人件費の圧縮」だけだ。
「学校を出たばかりの新人を筆頭に、20代は社会人の経験に乏しく、会社の指示に従ってしまう傾向があります。これをブラック企業は悪用し、若者を低賃金と異常な残業でこき使うのです。労働環境に社員が疑いを持てば、これ幸いと会社から追い出してしまうケースもあります。『経験を積んだ社員など必要ない。代わりに若い素人が入社してくれたほうがありがたい』と考える会社もあるほどです」(同・記者)
今も残る“徒弟制度”
ブラック企業の場合、「この仕事をどうしてもやりたい」という社員ばかりではない。入社して異常な就労実態に気づく者もいる。
一方、やりがい搾取が横行する職場は、「どうしてもこの仕事をやりたい」と強い意欲を持つ新人が少なくない。低賃金や残業に直面しても、それを是認する傾向がある。
「一説によると、やりがい搾取が横行する業界は、医療、介護、教育機関、アニメやテレビ番組などの制作、そして飲食だそうです。医療や教育などは社会的に重要な仕事だと考えられており、患者や老人、子供のため、従事者は身を粉にして働きます。映像や飲食業界は職人的な技能を継承する側面があり、依然として“徒弟関係”が存在します。先輩の言うことは絶対で、『一人前になるためには低賃金もやむを得ない』、『優れた作品や商品を作るには時間をかける必要がある』という考えが横行しやすいと言えます」(同・記者)
「パティシエ エス コヤマ」は毎日放送(MBS)の取材に、「時間をかけていいものを作る、技を磨くというスタイルを誰も疑ってこなかった」と弁明した。まさに「やりがい搾取」が常態化していたことが分かる。
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