江口のりこを愛でる「SUPER RICH」 知的で合理的、ウソのない富豪描写の説得力
富裕層特有の無神経さや感覚のズレはあるが、言葉も冗談も通じる。無愛想だが隠したり誤魔化したりせず、嘘もつかない。長期的利益も人も守り、「ありがとう」と「ごめん」を口にできるリーダー・江口のりこを愛でる木曜夜。「SUPER RICH」の話だ。
ドラマで富裕層の女性は「いけすかない傲慢」か「世間知らずでネジの足りない善人」で描かれることが多いが、のりこが演じる氷河衛(ひょうがまもる)はひと味違った。まず賢い。世間知らずな面もあるが、情と威厳と潔さがある。社内で人望がぶ厚い設定にもかなり説得力があるのだ。
そもそも、のりこ本人が所作や言葉に媚びや飾り気がない。「徹子の部屋」(10月19日放送)に出演したときも愛想なし(いい意味で)。常に口角上げて小首をかしげ、おかしくないところで無駄に笑う若い女性が多いが、あれ、アホに見えてなめられるし、悪しき輩に狙われるからやめたほうがいい。個人的にはのりこの無愛想を手本にすべきと思う。全国無愛想婦人会を結成したいくらい。愛想や愛嬌を女性だけに要求する社会のほうがおかしいんだけどね。
おっと、のりこ礼賛だけで1万字書けそうだが、そろそろ本題、ドラマの話を。
ヒロインは富裕な家庭に育つが、幼い頃に両親を失い、天涯孤独の身。人と話せなくなり、本ばかり読んでいた時期もある。大学時代に知り合った一ノ瀬(戸次重幸)と電子書籍出版社を立ち上げ、起業家として高く評価されていた。ところが一ノ瀬が反社企業の出資話に乗り、会社の金を横領して逃亡。順風満帆の経営が一転、存続の危機。さあどうする社長という物語。
会社には頼もしい仲間がいる。絶望の淵から救われた恩義で優秀な忠犬となった宮村(町田啓太)、親友で右腕の零子(中村ゆり)、赤字部門の編集長だが心のオアシス・碇(古田新太)。信じて支えてくれる社員多数、元上司で取引先の島谷(松嶋菜々子)は手を差し伸べてくれたものの、やり口は阿漕(あこぎ)。衛は企業のトップとしての決断に度々迫られる。
キーパーソンはインターン志望で喰らいついてきた春野優(赤楚衛二)。貧しい家で清く育ち、500円の価値を痛いほど知っている。衛を崇拝し、全力で懐いてくる。経済格差による観念の違いが、衛と会社によき化学変化をもたらしていく。
実は放送前は不安だった。「金はあるが愛を知らない孤独な女」と「貧乏だが愛に満ちた学生」の格差恋愛風味には違和感がある。役名も「氷河を春の優しさで溶かす」ってどうよと。賢さや長所が失われて、腑抜けになったら心底嫌だなぁと。
大丈夫でした。柔らかいがストレートでスカッとした関西弁の物言い、人の話も聞くが信念も貫く。揺らぎはあるが、大胆に動くときは動く。総じて知的で合理的に描いているので安心だ。「恋する女はキレイ」だの「ホルモンがどうこう」と古臭い演出も皆無だし。
ビジネスモノとしては心地いいので、恋愛不要論も浮上しているようだ。でもこのメンツなら大胆な恋愛事変でもいい。既視感のないセレブ奇譚を望んでいる。