石橋正二郎 ブリヂストン創業秘話 地下足袋屋はなぜ自動車タイヤの製造を始めたのか

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石橋家と鳩山家

 筆頭株主は、公益財団法人石橋財団の10・75%(7669万株)、理事長の石橋寛自身も2・94%(2100万株)を保有する第5位の大株主である(21年6月末現在)。

 団琢磨がタイヤの国産化の後押しをしてくれたことは書いたが、その縁から、正二郎の長男の幹一郎は団琢磨の孫娘・朗子を嫁に迎えている。

 正二郎と深いつながりがあったのが、政界のサラブレッド鳩山家だった。正二郎と鳩山一郎が知り合ったのは1941(昭和16)年、知人の紹介で両国国技館に相撲見物に出かけた時のことだ。

 親同士が一郎の長男・威一郎と正二郎の長女・安子の結婚を決めた。当時、威一郎は海軍主計大尉として南方にいたが、急遽、呼び戻されて見合いをした。初めて相手の顔を見た時には、既に結婚は決まっていた。戦後、正二郎が資金スポンサーとなって、鳩山一郎内閣実現の影の功労者となった。

 威一郎・安子夫妻には3人の子どもがいた。長女が冒頭に登場した井上和子。長男が元首相の鳩山由紀夫、次男が元総務相の故・鳩山邦夫である。

 こんなエピソードが残っている。2008(平成20)年、法相の鳩山邦夫は閣議後の記者会見で、株安の世界連鎖の影響で保有しているブリヂストン株が大幅に値を下げ、「兄の鳩山由紀夫・民主党幹事長(当時)と合わせて80億円損をした」と明かした。損は損でも含み損である。時価で売ったらこれだけの損が出る、という話に過ぎない。弟の放言に兄の由起夫は「またか」と渋い顔をした、と伝わっている。

月面探査車のタイヤ

 実は鳩山兄弟は、正二郎からブリヂストン株式を生前に贈与されていたのだ。鳩山兄弟は正二郎の遺産で政治活動に打ち込むことができた。

 持つべきものは大富豪の祖父である。

「唯一、生き延びることができるのは変化ができる者である」。正二郎が遺した言葉は、コロナ禍の今だからこそ、余計、説得力を持つ。

 ブリヂストンは今、JAXA(宇宙航空研究機構)、トヨタ自動車と「国際宇宙探査ミッション」に挑戦している。ブリヂストンの役割はもちろんタイヤ。JAXAとトヨタが開発する月面探査車「LUNAR CRUISER」のタイヤを開発している。

 月の環境は過酷だ。温度は摂氏マイナス170度からプラス120度と温度差が激しく、宇宙放射線が降り注ぐ。この環境に耐えうるためのタイヤは、ゴムの材料では難しい。タイヤはすべて金属製にするという。

 ブリヂストンは今、もう一度、根本から変化しようとしているのだ。
(敬称略)

有森隆(ありもり・たかし)
経済ジャーナリスト。早稲田大学文学部卒。30年間、全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書に『日銀エリートの「挫折と転落」――木村剛「天、我に味方せず」』(講談社)、『海外大型M&A 大失敗の内幕』、『社長解任 権力抗争の内幕』、『社長引責 破綻からV字回復の内幕』、『住友銀行暗黒史』(以上、さくら舎)、『実録アングラマネー』、『創業家物語』、『企業舎弟闇の抗争』(講談社+α文庫)、『異端社長の流儀』(だいわ文庫)、『プロ経営者の時代』(千倉書房)などがある。

デイリー新潮取材班編集

2021年11月9日掲載

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