天気予報から気象の総合コンサルタントへ――長田 太(日本気象協会理事長)【佐藤優の頂上対決】

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経済の中の気象を考える

佐藤 お話をうかがっていると、新事業は、どれも公共と民間がほどよくミックスされている感じがします。

長田 そうですね。いま一番力を入れているのは、洋上風力発電向けの風況観測と環境アセスメントです。政府のエネルギー基本計画では、2030年度に再生可能エネルギーを現在の18%から38%に引き上げるとしています。その中心は洋上風力の拡大です。現在は陸上風力を合わせても1%に達しませんが、これを洋上だけで6%、2040年度には30%まで増やす計画になっています。

佐藤 現時点でどのくらいのプロジェクトが動いているのですか。

長田 秋田、山形、青森など日本海側を中心に、およそ50の地域で計画が進められています。その半分で、当協会が風況観測や環境アセスメントをさせていただいています。ただこれではまったく足りないんですね。あと10倍くらいはないと政府の目標は達成できない。

佐藤 日本海側が多いのは?

長田 やっぱり風が強いんですよ。ただ風力の場合、風が安定的に吹くわけではありませんから、発電量としては性能の5分の1くらいになってしまうんです。だから風の計算やアセスメントが重要になってくる。

佐藤 そうすると、太平洋側はもっと大変ですね。

長田 和歌山や千葉、静岡などで計画されていますが、風は弱い。岩手では、風が弱いので沖合に持っていこうとしています。そうすると海が深く着床式にできないので、浮体式になります。

佐藤 日本は台風が頻繁に訪れます。浮体式でうまくいきますか。

長田 海底とつないでいるチェーンがけっこう切れて流されたりするんですよね。私は内閣官房の総合海洋政策本部にいた時もいろいろ研究しましたが、技術的な課題が多くある。また送電線が長くなるという問題もあります。ただ浮体式の技術は日本しか持っていませんから、これを一所懸命に開発していけば、世界に売り出すことができる。その意味では非常に夢のある話です。

佐藤 これだけ環境問題が叫ばれていますから、マーケットは大きい。

長田 気候変動問題には積極的に関わっていきます。企業の財務報告書に気候変動関連のリスクと対策を書き込むことを提唱しているTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)という組織があります。ヨーロッパを中心に各国の中央銀行や金融当局で作る金融安定理事会が設立したものですが、日本でもいま千社くらいが賛同しています。たぶん日本の金融庁も近いうちにそれらを有価証券報告書などに盛り込むよう決めると思います。

佐藤 特に、災害の多い日本では切実な問題ですからね。

長田 2018年の台風21号で関西国際空港が水没し、翌年の台風19号では長野市の新幹線車両基地が水に浸かりました。その後、いろんな企業から気象リスクについて調べてほしいという依頼がありました。ある新聞社は輪転機が地下にあり、沈んだら明日の新聞が出せないという。企業の財務上、気象リスクは重要なファクターになっています。それにどういう対策を講じていくかをアドバイスする仕事は、私どもがやっていかなければならない。

佐藤 昨年、世界的な経営コンサルティング会社KPMGと組んで始められたのは、この仕事ですね。

長田 そうです。経済の中で気象情報がどういう役割を果たしていくかを考える時代になった。その中で当協会は、気象予測から気象コンサルタント事業の会社になります。ドローンや空飛ぶ自動車もそう遠くない未来に実用化に入ってきます。これらが安全に運用されるにも気象情報が必要です。時代を先取りする形でさまざまなサービスを打ち出していきたいと思っています。

長田 太(おさだふとし) 日本気象協会理事長
1954年大阪府生まれ。京都大学法学部卒。78年運輸省(現国土交通省)入省。主に航空行政に関わり2011年航空局長。12年内閣官房総合海洋政策本部事務局長となり14年退官。三菱UFJリサーチ&コンサルティング顧問、成田国際空港専務、副社長を経て、19年より(一財)日本気象協会理事長。

週刊新潮 2021年11月4日号掲載

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