膝の怪我で7回手術……バレーボール35歳「清水邦広」が満身創痍で現役を続ける理由
隔離期間中に悪化
2019年2月2日、長いリハビリ期間を経て、清水はようやくコートに戻ってくることができた。同年8月3日には日本代表戦に復帰。2019‐20シーズンではVリーグの通算得点数、出場試合数も更新し、東京五輪のための日本代表にも選出されている。だが、膝の痛みは抱えたままだった。
「代表に選ばれて、今までやってきたことが間違いじゃなかったと思えましたが、最大の目標がオリンピックで結果を残すことなので、うれしいながらもまだ目標の通過点だと、気持ちを引き締めなおす感じでした。僕はチームの中で、唯一オリンピックを経験したことのあるベテランだったので、プレッシャーのかかる大会で若い選手たちの精神的支柱のような役割を果たす、という意気込みで臨みました。
ただオリンピック直前の5~6月に、イタリアで開催されたネーションズリーグでは長時間の移動や試合の過密スケジュールのおかげで、日本に戻ってきたときには歩くだけでも痛くて……。コロナで隔離期間もあったので病院に行くこともできず、さらに悪化してしまいました」
五輪でのプレーができるのかと不安はあったというが、7月24日、初戦のベネズエラ戦を迎える。3セット目で途中出場した清水は、ブロックアウトで1点を勝ち取り、チームもセットカウント3-0でベネズエラに勝利した。五輪での勝利は、1992年のバルセロナ以来、29年振りだった。
「ベネズエラから得た1勝は、北京の悔しさを抱える僕にとって、大きな1勝でした」
その後、日本は予選リーグを突破、準々決勝でブラジルに敗れはしたものの、7位という成績を残した。
日本スポーツ界初の最先端医療
しかし、清水の膝は悲鳴を上げていた。
「結局、オリンピック直後に7回目の手術をし、10月から始まるVリーグに備えて、それから2ヵ月間はジャンプをせずに体を作り直していました」
Vリーグが開幕した10月15日。ウルフドッグス名古屋との初戦、清水も途中交代でわずかな間コートに立ったが、まだ調子は取り戻せていないように見えた。
清水は9月16日、日本のスポーツ界では初という脂肪幹細胞の再生治療を受けていることを自身のInstagramで明かした。これは、皮下脂肪に存在する脂肪幹細胞(脂肪組織由来幹細胞)を採取し、注射で患部に投与することで組織や臓器を元通りの機能や形に戻す最先端の医療。ヨーロッパを中心に、多くのスポーツ選手が取り入れている治療法だという。
「もともと同じ病院で、自分の血液から有効成分を取り出して膝に注射し、自己修復力を増加するPRP(多血小板血漿)療法を受けていたんです。僕は軟骨も損傷しているのですが、軟骨だけは他の骨と違って元に戻らない。脂肪幹細胞の再生治療を受ければ、それをカバーしてくれるということだったので、やってみようと」
手術を繰り返し、新しい治療法も積極的に取り入れて怪我に向き合うも、すでに35歳。なぜ現役にこだわるのか。
「バレーボールが大好きだからです。幼いころ、ママさんバレーをやっていた母親がエーススパイカーで、『お母さんのようになりたい』と思ったのがきっかけでバレーを始めました。初めてVリーグを見たのは、中学1年のとき。サントリーサンバーズのジルソン・ベルナルド選手が、今、自分がやっているオポジットというポジションで活躍していて、もうめちゃくちゃすごかったんです。あんな選手になりたいと思って、スパイクを決めているうちに楽しさが快感に変わっていったというか。今でもあのころの思いは消えていないんですよ」
[3/4ページ]