デジタルになってもハンコ文化はなくならない――舟橋正剛(シヤチハタ代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】
95年から電子印鑑事業
佐藤 一方で、シヤチハタはもう長らく電子印鑑事業も展開されていますよね。
舟橋 1995年に電子印鑑システム「パソコン決裁」を発売しました。でもこの25年間、まったく鳴かず飛ばずだったんですよ。それが今回のコロナで急にクローズアップされた。
佐藤 ウィンドウズ95が出たタイミングに合わせての発売ですか。
舟橋 その通りです。
佐藤 かなり早いですね。まだITのエンジニアも少ない時代です。どうやって開発されたのですか。
舟橋 当時、まだ私は入社しておらず、父・紳吉郎が社長を務めていました。コンピューター上でハンコを押すソフトウエアを作ろうとしましたがノウハウがない。そこで、いろいろな会社に相談しました。そして、当時アスキーの西和彦社長が立ち上げたアスキー・ネットワーク・テクノロジー社(ANT)にお願いすることにしました。また、弊社の社員をANT社に出向させ、さまざまな知識を学びました。それまで町のハンコ屋さんに「まいど!」と営業していた者もソフトウエア営業として加わりましたから、かなりたいへんだったと思いますね。
佐藤 それによって、技術者や営業マンが自社で育っていった。
舟橋 細々と、ほんとに一歩一歩進めてきた感じです。その時々のOSに合わせてバージョンアップし、ウィンドウズからマッキントッシュにも広げ、サーバー管理だったものをOSを選ばないクラウドにしてきました。
佐藤 今回、どのくらい伸びたのですか。
舟橋 昨年2月までは、月に2千件ほどの申し込みでした。その後、新型コロナでリモートワークが広がったのに合わせて、3月から6月までの4カ月間、無料開放させていただきました。認知度を広げたいということがありましたが、こうした中でも仕事を続けなければなりませんから、皆さんに少しでも役立てていただければ、と思ったのです。
佐藤 なるほど、それで多くの人が助かったと思いますよ。
舟橋 その4カ月間では、約27万件の申し込みがありました。
佐藤 月に6万5千件以上ですね。ゆうに30倍を超えます。
舟橋 しかもこれまでの統計だと、契約していただいたお客様の約97%は、その後も継続してお使いくださっています。
佐藤 もう必要なツールとして手放せなくなったということですね。だからGMOサインや弁護士ドットコムなどの競合会社も出てきていますね。違いはあるのですか。
舟橋 両社とも、電子契約を主眼に置かれていますね。一方、私どもは、社内の稟議書や報告書にどこからでもハンコを押せる社内システムとしてスタートしました。そこから社外とのやりとりに使える現在の「シヤチハタクラウド」まで改良を重ねてきたのですが、その際、私どもはBPS、「ビジネスプロセスそのまんま」を合言葉にしてきました。
佐藤 Sは「そのまんま」の頭文字なんですね。
舟橋 はい(笑)。その合言葉のもとに、例えばA社が電子印鑑を持ち、B社が持っていない時にはどうするかなど、困りごとの解決法を一つひとつ積み上げてきました。
佐藤 そのあたり、どこかアナログ的なところがありますね。
舟橋 そのように始まっていますから、どんな会社でも入りやすく、プチDXができるようハードルを下げて展開しています。値段は、1カ月に何度使っていただいても1印影につき110円からで、金銭的にも非常にリーズナブルな設定になっています。
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