土光敏夫が東芝再建で見せた“根性と執念” 「役員は10倍働け。私はそれ以上働く」
東芝の経営は混迷の度を深めている。6月25日に開いた定時株主総会で、昨年、再生の切り札として招聘されたばかりの取締役会議長・永山治(中外製薬名誉会長)の再任が否決される事態に発展した。過半の株主が東芝の経営に「ノー」をつきつけたのだ(敬称略)
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【写真2枚】昭和59年6月、週刊新潮は土光敏夫氏にインタビュー取材を依頼し、カメラマンが写真を撮影した。今となっては非常に貴重なショットだ
4月14日、三井住友銀行副頭取から東芝に転じた社長兼CEO・車谷暢昭が、東芝に買収を仕掛けた投資ファンドとの不適切な関係を追及され辞任したのが混乱のきっかけだった。結局、後任の社長兼CEOには、前社長で会長の綱川智が出戻ってきた。
「綱川さんは決断できないヒト。何もやれなかった。アクティビスト(物言う株主)の言うことだけを聞いてきたから、会長に棚上げされた」(東芝の若手社員)。失礼な言い方になるのをお許しいただきたい。残念なお人柄なのだ。
株主総会では、昨年の総会をめぐり、「東芝の経営陣と経済産業省が一体となって、株主の権利行使を妨げた」と報告された。退任した社長の車谷と経産省のズブズブな関係に原因があったとはいえ、企業で起きた森羅万象の出来事について、すべて責任を負うのが経営を監督する取締役会トップの宿命である。取締役候補のうち、取締役会議長の永山と監査委員だった小林伸行の再任が否決された。
アクティビストばかりではない。一般の株主までもが取締役会の長に不信任を突き付けた。原因が東芝の経営に対する怒りだったのは言うまでもない。
東芝の3悪人
東芝の経営は失敗の連続だった。2015年に会計不正が発覚し、直近3代の社長経験者を含む経営陣9人が引責辞任。16年末に米国原発事業で巨額損失が露見し、債務超過に転落。トラの子の半導体事業の売却を余儀なくされ、事業規模は半分になった。しかも、いまだ浮上する兆しが見えてこない。
会計不正問題を受け、2015年9月に開催された臨時株主総会では、株価下落や無配転落に株主の怒りが噴出。大荒れの総会は終了まで3時間50分を要した。過去最長・最悪の株主総会となった。
東芝OBの株主たちは、辞任した前社長の田中久雄、前副会長の佐々木則夫、前相談役の西田厚聡という歴代3社長を「3悪人」と名指しし、非難した。
「役員は土光さん(1965年から東芝社長を務めた故・土光敏夫)の墓の前で土下座して謝るべきだ」との厳しい声が飛んだ。過去の名経営者を懐かしむ声は、他の株主からも挙がった。室町正志社長(当時)は、「土光さんは工場に普段着のまま現われ、従業員と忌憚なく話し合ったと聞いている。尊敬する大先輩だ」と声をふり絞って答えていた。
「土光さんなら、東芝の難局をどうやって切り抜けるだろうか?」。東芝の有力OBや株主たちが思い浮かべたのは、土光敏夫の突破力だった。
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