おかえりモネ終了 ラスト3話で未知の衝撃の告白…朝ドラの常識をことごとく覆す安達ワールドとは

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ガラケーの意味

 説明調のナレーションが省かれていたシーンの代表例を挙げる。

 第112話。モネの父で銀行員の永浦耕治(内野聖陽、53)のところに、元漁師で現在はイチゴ栽培を手伝う及川新次(浅野忠信、47)がやって来た。亮の父だ。

 新次はある決意を抱いていた。東日本大震災時に行方不明になり、約10年そのままにしたおいた恋女房・美波(坂井真紀、51)の死亡届を出そうとしていた。それによって保険金と見舞金を得て、亮が買う漁船の資金援助にしようと考えていた。

 その場に登場したのが、新次のガラケーだ。第36話からの第8週を見ていない視聴者には何を意味するのか分からなかったはずである。

 ガラケーの留守電には行方不明になる直前の美波の肉声が録音されていた。だが、第112話では一切説明されなかった。

 ガラケーにはこんな留守電が入っている。

「美波です。亮は学校にいるから大丈夫。私も今、位牌を持って家出るところ。お父さんも船、沖に出せば。無理しないでね」(美波)

 だから新次は手放せない。

 また、震災で犠牲になった方の描き方は繊細かつリアルだった。美波に「かもめはかもめ」(1978年、研ナオコ)を歌わせたことである。

 これは回想シーンなので、見る側は美波が犠牲になったことを知っていた。だから美波が明るく振る舞うほど、悲しくなった。切なくなった。フィクションと分かっていながら。

 震災で亡くなったり、行方不明になったりした人々は1万8425人。自戒を込めて書くと、マスコミは犠牲者を人数で考えてしまいがちだ。だが、安達さんと演出陣は美波に楽しそうにカラオケを歌わせたことで、あの日までは1万8425人に日常があったことを思い起こさせてくれた。

 もっとも、死者と生者がつながっているのも安達ワールドの特徴だ。震災時に未知が置きざりにした雅代は、カキに転生して家族を見守っている。第1話で雅代本人によって明かされた。家族が心配なのだ。

悪人のまったく出てこない物語

 龍己は第114話で、美波の死亡届を出したことについて迷いを見せた新次に対し、こう言った。

「うちの雅代、あそこ(仏壇)に収まってっけど、案外と近い感じでよ。さみしーことねーよ」

 実際に雅代は近くで見守ってくれているのだから、そうだろう。美波もきっと新次を見守る。

 死者と生者のつながり。これは被災地・東北を長期取材した上で物語を紡いだ安達さんの願いが込められているのだろう。

 悪人のまったく出てこない物語でもあった。世相が暗いことから、安達さんはせめてドラマは善人だけで構成したかったのではないか。

 贅肉がない物語だったということも付け加えたい。「俺たちの菅波」現象を巻き起こした菅波だが、実は生まれや育ちには全く触れられていない。ヒロインのフィアンセなのに。ほかの登場人物も大半が現在のことしか分からなかった。

 だが、それで良かったのである。このドラマはあくまでモネが誰かとつながる物語だったのだから。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年10月31日掲載

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