森田芳光監督 生誕70年で人気再燃 ライムスター「宇多丸」が語る”色褪せない作品の魅力”

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“舞台裏”の証言価値

 宇多丸さんは森田作品を、DVDなどで何度も見返してきた。だが、監督の全作品を発表年順に、しかも満員の観客と共にスクリーンで再見するのは全く違う体験だったという。

「自宅のモニターも大きいとはいえ、スクリーンには敵わない。見るときの集中度も違う。何度も見返したはずの作品でも、新たな発見があったことには自分でも驚きました」

「これは、やっぱり失敗作かな……」と、心理的な距離を置く森田作品もあった。ところが、改めて全作品を公開順に見てゆくことで、腑に落ちたことが何度もあったという。

「僕も音楽をやっているから分かりますが、どんな作品もそれが単体でいきなり出てくるわけでは当然なくて、それが作られたなりの必然性があるんです。1作1作を面白いとかつまらないとかの基準で見ているだけでは分からない視点を得られました」

 キネマ旬報での連載は、何と毎月8ページを確保してくれたという。

「担当者は大変だったと思います。テープ起こしをベースに、どんどん書き足していく。ゲラが上がってくると、我ながら『これは面白い』って思うんですよ。読者賞をいただいたのは嬉しいけど、『当然ですよね』って気持ちもありました。森田さんの映画は面白い。三沢さんの話も面白い。面白いものを面白く話しているんだから、面白くならないはずがない」

作者“不在”の価値

 単行本の『森田芳光全映画』の「まえがき」で宇多丸さんは、以下のように記した。

《生前の森田監督にお会いすることが自分には結局出来なかった、ということからくる飢餓感と後悔、そしてその裏返しとしての使命感めいたものが、大きく働いているように思います》

 この本の最大の特徴は、宇多丸さんが森田監督をインタビューしていない、ということだろう。

「僕が森田監督にお聞きしたかったことは山のようにあって、改めてご本人とお会いできなかったことが悔やまれます。ただ、もしインタビューが実現していても、意見がそこまで合ったかはわからない。更に一般論として、作り手の回答だけが作品理解の“正解”とは限らない、ということもあります。僕自身も、自作についてインタビューなどを受けていて、『なるほど、その見方は想定してなかったけど、アリですね』となることが往々にしてありますから」

 森田監督はテレビに出演することも多く、いわゆる「弁が立つ」タイプだ。映画監督としても理論家で、宇多丸さんの質問にも難なく答えたのは想像に難くない。

「その一方で、森田監督は渋谷生まれの東京っ子ですから、大の照れ屋でもあるんです。三沢さんによると、普段は相当シャイな方で、店で注文を取りに来るのを忘れられたりしたこともよくあったようです。要するに“含羞の人”で、本音を隠しちゃうタイプだし、自作に説明を加えることも避けておられた。『模倣犯』(東宝)のDVDには森田監督の音声解説が収録されているんですが、悪ふざけばっかりしている(笑)。それはそれで森田さんらしくてファンとしては納得なんですが」

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