気鋭の法学者・木村草太が薦める紅茶店、菓子店は? 奥深い紅茶の魅力を解説
同じ産地・同じ農園でも、気候で個性が変化する紅茶の魅力
東京都立大学教授で、『むずかしい天皇制』などの著書がある法学者の木村草太さん。テレビや論壇で活躍する彼が、東京大学法学部在学中から楽しんできた、東京の街並みと紅茶を味わう極意とは。
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学生時代、私はしばしば東京の街で飲み歩いていた。といっても、飲んでいたのはお酒ではない。紅茶だ。
紅茶専門店は、ワイン専門店や日本酒専門店と比べて数が少ない。しかし、そこは世界有数の大都市・東京の懐の深さ。住民の多様な需要を受け止めるため、紅茶専門店も質量ともに充実している。私が今でもよく通っているのが、「青山ティーファクトリー」。セイロンティーの専門店だ。昔は青山にあったのだが、店名は「青山」のまま、大岡山を経て神田神保町に移転した。
紅茶は個性豊かな飲み物だ。インド・ダージリンの春摘み紅茶は、香りが華やかな一方、味が繊細で、甘さを引き出すのが難しい。このお茶を煎れるときには、丁寧さや心の準備が必要で、自分が試されているような気分になる。同じダージリンでも、夏摘み紅茶は味も香りも気高く、まさに紅茶の女王。こちらは、上手く煎れても、「味も香りも、煎れたあなたではなく、私(茶葉)が偉いのよ」と高慢な感じがするのだが、それもまた魅力だ。
今回、私が一押ししたいのは、インドではなくスリランカで作られるお茶。セイロン島は、インド亜大陸の東南にティアードロップのように浮かぶ美しい島で、紅茶の産地としても有名だ。一口にセイロンティーといっても、高地特有の華やかさを持つヌワラエリヤ、独特の香りが印象的なウバ、ガツンと来るディンブラ、奥行きが広くミルクとの相性も抜群なルフナ、時々無性に飲みたくなるキャンディと、地域によって茶葉の性格は多様だ。
さらに、紅茶は、同じ産地・同じ農園でも、その年の気候によって味が大きく変わる。青山ティーファクトリーでは、マスターの清水さんが、セイロンで茶葉を買い付けてくる。「大当たり」の紅茶を見つけたときの清水さんは本当に嬉しそうだが、そういう時は、我々客の側も大喜びである。
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