これでは権力者が二階から甘利になっただけ…投開票を前に自民党内に漂う不穏な空気

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安倍への露骨な嫌がらせ

 安倍氏は最側近の萩生田光一経済産業相を岸田総裁とのパイプ役に、人事や政策面での影響力を保持するつもりだった。しかし、その意をくみ取らずに岸田氏が官房長官に起用したのは萩生田氏ではなく、松野博一氏だ。松野氏は細田派所属ではあるが、麻生派幹部の甘利幹事長が2011年に結成した派閥横断グループ「さいこう日本」のメンバーでもある。ちなみに、このグループからは岸田内閣で山際大志郎氏や金子恭之氏ら4人の「甘利印」が閣僚に就いている。ある閣僚経験者には「安倍氏への露骨な嫌がらせ」に映るという。

 一言で「3A」といっても、もはやそのパワーバランスに微妙な変化が生じているというわけだ。岸田氏は先の総裁選で麻生派の河野氏陣営ではなく、自身の支持を固めた甘利氏に頭が上がらず、経済安全保障などの政策や人事でも「甘利カラー」を積極的に採り入れている。安倍氏と二人三脚で長期政権を築いた麻生氏も副総裁にまつり上げられ、もはや実質的に権力を握るのは甘利氏という「1A」状態にある。

 安倍氏に近いとされる産経新聞は10月28日、「自民・甘利幹事長試練 議席大幅減なら不満矛先に」と題する記事を配信。超スピード決戦となった衆院選で「結果を残せば求心力は高まるが、議席を大幅に減らせば責任問題に発展しかねない」としている。

 上には弱いが、下には高圧的との評もある岸田首相。その軸足が甘利氏に傾く中、くすぶる火種の後に安倍氏の怒りを感じる関係者は少なくない。総選挙後の力学の変化に神経をとがらせる財務省幹部からは「これでは権力者が二階氏から甘利氏に変わっただけ。総選挙後に一波乱あるのではないか」との声も漏れている。

取材・文 小倉健一 ITOMOS研究所所長

デイリー新潮取材班編集

2021年10月30日掲載

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