バラマキ合戦の総選挙で議論されない「分配」の原資 野党の「金持ちから取ればいい」は無理筋
貧しくなった日本人
一方、野党が言うような「税金は金持ちから取ればいい」という話にも無理がある、というのはさる大学教授だ。
「日本経済新聞なども書いていますが、日本は米国に比べて格差は大きくありません。経済協力開発機構(OECD)のデータでは、米国はトップ1%の富裕層が国全体の富の40%を独占していますが、日本はトップ1%が握る富は11%。金持ちから取ると言っても、実はそれほど金持ちの数は多くないのです。しかも、金融資産は国境を越えて海外に移動しますから、税率を上げても、簡単に税収が増えるというわけでもないのです」
とはいえ、格差が拡大していると、多くの国民が感じているのは事実だろう。
「成功している人がごく一部で、大半の人が貧しくなっているからそう感じるのです。日本の平均年収は実質ベースで30年間ほぼ横ばいです。デフレ下で物価が下がったので、それでも生活できた。ところが日本だけが成長せずに為替が円安になったことで、輸入物価が上昇して生活が苦しくなってきた。日本人全体が貧しくなっているんです。一部の成功者から税金を取れば、全体が豊かになると考えるのは幻想です」(同)
財務省の本音は消費税の引き上げ
もっとも、野党がそろって主張している消費税率の時限的引き下げとなると、話は別だという。エコノミストが語る。
「ポスト・コロナで一気に景気を回復させる術として消費税率を引き下げるのは有効かもしれません。コロナで消費したくてもできない状況だったので、消費税減税をきっかけに消費が爆発する可能性が高い。税率を時限的に引き下げても、税収はそれほど減らないと思います。時間がある一部の人しか恩恵を受けられないGoToトラベルを再開するなら、すべての人に行き渡る消費税減税の方が平等です。実際、ドイツも時限的な消費税減税を導入しました。景気が過熱してきたタイミングで税率を戻せば影響は少ないでしょう」
しかし、岸田首相は消費税減税だけは、きっぱりとやらないと言っている。
「財源としての金融課税強化や法人税率引き上げを封印したうえで、消費税率まで下げたら予算が組めないと財務省がかなり抵抗します。財務次官が月刊誌に寄稿して『バラマキ合戦だ』と批判しましたが、財務省の本音は、歳出の抑制ではなく消費税率の引き上げです。やっと実現させた消費税率10%を放棄することなど絶対にできない、ということでしょう」(同)
総選挙が終われば、自民党では年末に向けて税制調査会が開かれ、税制改革が議論される。どうやって巨額の財政出動の原資を捻出するのか。選挙戦で言った「公約」とは関係なしに、そこで本音が見えてくるはずだ。
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