東大大学院教授がデジタル教科書に警鐘 「覚えやすいのはスマホより紙」

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「学力低下に陥る」

「デジタル教科書のメリットとして、さまざまな情報にアクセスしやすくなることがよく挙げられます。抽象的な概念でも、ビデオ教材へのリンクが理解の一助になるかもしれませんし、検索機能を使えば必要な情報を瞬時に入手できるでしょう。しかし、多くのリンクに目を通したり、動画を視聴したりするには、今までと違った時間の使い方が必要となります。その分、自分で考えたり想像したりして、足りないところを補う余地がなくなってしまいます。教育は、楽をすることや効率が目的ではありません。もっと時間をかけて物事を深く理解し、必要な知識を定着させること、そして、未知の問題にも通用するような柔軟な思考力を鍛えることが重要ではないでしょうか。便利なデジタル教科書やタブレット端末に頼ることで、繰り返し書いて覚えるといった教育の根幹が揺らぐことを憂えています」

 また、安易な検索によって、膨大な情報を受け止めきれず、表面的な理解にとどまったりする可能性も指摘する。

「例えば、ゴッホの有名な《ひまわり》という作品は、ネット上の画像だけでどこまで理解できるでしょうか。たとえ高精細のデジタル技術で画像が再現されたとしても、そのリアルな大きさや質感まではわかりません。本物を見たときに得られる情報の量と質とは比べものにならないのです。巨大なキャンバスに描かれた花全体の迫力や、絵の具が3次元的に盛り上げられた力強い表現を眼前で体験することは、ネットサーフィンとは異質なものです」

 今後、デジタル教科書が普及していく中で、どのようなことに注意する必要があるのだろうか。

「教育の目的をしっかり見据えた上で、紙とデジタルを使い分けることが現実的でしょう。それはバランス良く選択すればいいのではありません。あくまで『紙が主、デジタルは従』という、あえてアンバランスな選択を貫くことが大切です。例えば、空欄を残したプリントを用意して、授業中にその部分について考えさせる一手間を惜しまないことです。そういう能動的な余地を残しておかないと、生徒は常に受動的になってしまい、結果として学力低下に陥る可能性があると思います」

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