日用品の会社から「空気ビジネス総合企業」へ――鈴木貴子(エステー代表執行役社長)【佐藤優の頂上対決】

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会社を作り変える

佐藤 主力は、やはり消臭剤ですか。

鈴木 そうですね。全体の売り上げでは「消臭力」「シャルダン」などの消臭芳香剤、脱臭剤が43%、「ムシューダ」「ネオパラ」など防虫剤が19%、家庭用手袋が14%です。

佐藤 米びつに入れておく「米唐番(こめとうばん)」というユニークな商品もありますよね。あれは外国暮らしの日本人もよく使っています。ロシアあたりだと、現地の人は米を500グラム単位でしか買わない。使い切りなんです。でも日本人は習慣で何キロと買って米びつの中に大量に入れておく。そうすると「米唐番」の出番となる。

鈴木 そうなんですね。「米唐番」は、米びつ用防虫剤としては、80%くらいのシェアがあります。

佐藤 もともと防虫剤の会社としてスタートされたんですよね。

鈴木 祖父が営んでいた雑貨店をもとに、薬学部に学んだ父・誠一が中心となって、1946年にエステー化学工業所を作ったのが始まりです。戦争中、疎開先に送った着物が虫に食われて戻ってきた。それを悲しむ祖母を見て、防虫剤を作ったそうです。

佐藤 それを箪笥の中から米びつにまで広げられるところなど、発想が柔軟ですね。

鈴木 そうした面がある一方で、私が入ったころにはさまざまなブランドが乱立していました。それで強いブランドだけ残す形に集約しました。

佐藤 コロナの影響はいかがですか。

鈴木 最初はどうなることかと思ったのですが、いざ蓋を開けてみたら、消臭剤も防虫剤も米唐番も動きがよく、既存事業はとても堅調に推移しています。やっぱり巣ごもりで家の中で過ごす時間が長くなりましたから、消費者の方々の意識が家庭に回帰していったんですね。

佐藤 家の中でのより心豊かな生活に関心が向くようになった。

鈴木 そうですね。これは私のライフワークにつながる動きで非常に共感できるし、チャンスだなとも思いました。実際、営業活動を自粛しているにもかかわらず、売り上げ、利益とも昨年は過去最高を更新することができました。

佐藤 そこまで巣ごもり需要が数字にはっきり出たんですね。

鈴木 ただその機をとらえて、新分野や新市場への取り組みをもっとすべきだったのに、それができなかったのは、大きな反省点です。

佐藤 新しい分野というと?

鈴木 業務用ですね。

佐藤 それは、これまでの方向とは大きく異なる展開です。

鈴木 私は、空気を軸にした「空気ビジネス総合企業」に会社を作り変えたいんです。前の喬社長は「グローバル・ニッチ・ナンバーワン」というビジョンを掲げていました。それだけ聞くと、日用品の小さな市場の中でニッチな商品を脈絡なく次々に出していくという感じと誤解されることもありました。

佐藤 ステージが変わる感じですね。

鈴木 消臭や除湿、防虫といった商品から、ビジネスのコアを見極めると、どうなるのか。それは「空気」なのだと気がつきました。そして次にドメイン(場所)を考えた。空気なら、別に家庭の中だけではなく、オフィスにも病院にもホテルにもある。介護施設や空港やトンネルだって空気は重要です。それならBtoCだけでなく、BtoBでもいろんなことができる――。

佐藤 空気ビジネス総合企業というコンセプトを打ち出されたのはいつからですか。

鈴木 最初に文字にしたのは、2017年です。前の中期経営計画を作った際に、自分たちが持つべきコア技術を整理しました。そこから、日用品から飛び出して、立体的に「空気のエキスパート」として事業展開しようという方針が固まりました。

佐藤 空気は、古典ギリシャ語だと「プネウマ」です。これには風、呼吸、生命という意味もあり、根源的には気とか霊など、超自然的な存在を言います。だから空気には、やる気とか精神とかが含まれている。

鈴木 深い意味があるんですね。

佐藤 だから変な空気だと人間はやる気をなくします。

鈴木 ああ、確かにそうですね。

佐藤 同じような意味を持つ言葉に、沖縄には「セジ」があります。

鈴木 初めて聞きます。

佐藤 セジは人に付くと急に頭が良くなるし、刃物に付けば、切れ味が良くなります。だから空気を変えていくというのは、プネウマやセジを変えるということで、人間のやる気や何かの機能を高めたりすることに大きく関わってきます。

鈴木 そう言っていただけて、すごく嬉しいです。それは生活を心豊かにすることにもつながりますよね。将来は、「空気」でお困りのことがあったら、まずエステーにご相談くださいという会社にしたいんです。

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