「スポーツが教育的というのはおごり」 日本ラグビー史を変えた監督「宿澤広朗」が遺した金言(小林信也)
“教育”はおごり
宿澤の生き様に接して、琴線に触れることは勝負以外にも多々ある。
一つはロンドン勤務時代、リコーの水谷眞らとロンドン・ジャパニーズというクラブを立ち上げ、休日に楽しんでいた。大学選手権や日本代表で頂点を目指すだけが「宿澤のラグビー」ではなかった。私がラグビー少年なら、叶わぬ桜のジャージを追うのでなく、ロンドン勤務のできる企業に入ってロンドン・ジャパニーズで一流選手とプレーする未来を思い描いたのではないか。そういう夢があることもスポーツの豊かさだ。
そして宿澤は、永田のインタビューに答えてこう語ったことがあるという。
「僕はラグビーそのものに教育的価値があるとはそれほど思っていないんです。結果として教育にいい、というのは明快で、これはスポーツ全般にも言えることです。だけど、教育的観点からスポーツをやるというのは、僕はあまり賛成じゃない。むしろラグビーをはじめスポーツが教育的だというのは、相当なおごりだと思いますよ」
スポーツを白々しく賛美し利用する者たちの常套句を見事に論破している。さらにこう語る。
「競技スポーツにおいてはあくまでも『勝利』が唯一無二の目的であって、教育的価値は副産物に過ぎない。(中略)あくまでもルールは破らないという一点を矜持にすることで、『勝利至上主義』と一線を画している」
結果重視の風潮が蔓延しているが、スポーツの魅力はプロセスにあり、勝負の前後にもあることを宿澤は知っていた。いまこの時代にこそ必要なリーダーを、神様はなぜ日本から奪ったのか? その答えが見つからない。
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