がん患者の4分の1の死因「がん悪液質」とは 体重減少で衰弱、期待の治療薬が登場
「食べることは生きる活力」
成功したかに見える治験だったが、課題も生まれた。治療薬によって骨格筋量は増えたが、筋力の改善が見られなかったのだ。治験では、握力や6分間歩行などの調査が行われたが、アナモレリン群とプラセボ群との間に有意差は生まれなかった。
「これは大きな課題として、いまも残っています。私たちの考えでは、ある程度筋肉に負荷をかけなければ、日常生活に役立つような筋力の回復は得られない。筋力の改善には、骨格筋量を増やすだけではだめで、運動トレーニングが必要だろうと推測しています。そのため現在、筋力を高める運動プログラムを作り、アナモレリンの投与と併行してその運動を取り入れた臨床試験を行っています」
と、高山教授は課題への対応を語る。
もし運動トレーニングによる筋力改善の有効性が確認できれば、治療薬とセットにした療法として推奨されることになるだろう。
ともあれ、がん悪液質を治療薬で改善できるようになったのは、がん患者にとっては大いなる朗報である。現在は、前述したように治療薬「エドルミズ」が適応されるがんの種類は限定されている。それは治験を行ったがん種を対象としているからで、今後ほかのがん種に対する治験が行われて結果が出れば、適応されるがん種は広がる可能性もある。
「今回の治療薬は、がんを直接治療する薬ではありませんが、食欲が出てきて食べられるようになれば、体重減少による衰弱が軽減し、中断せざるを得なかったがんの治療を続けられる患者さんが増えるのではないかと期待しています。その結果、予後の改善につながり、寿命が延びる可能性があります。なにより、患者さんのQOLが向上することが大きなメリットだと感じています。食べることは生きる活力につながるのです。今回の治療薬の治験を通して、そのことを強く感じています」
と高山教授は実感を込めて語る。
がんでやせていくことは、不可抗力ではなく、もはや改善できる病態といえる。確かに、抗がん剤や放射線療法などの副作用や、がんの進行や再発による精神的な落ち込みで、食欲が失われ体重が減少することはあるだろう。だが、治療が一段落しても、食欲が戻らなかったり体重が減り続けるとしたら、それはがん悪液質のためなのだ。
そのことを正しく認識し、治療薬を使って病態を改善していくことが、がん患者の悩みを解決することにつながる。体重減少に気づいたら、まずは積極的に担当医や看護師に相談してみてはどうだろうか。そのためには、がん患者を支える家族の気づきも大切になってくる。
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