「Jリーグ本拠地撤廃」報道の衝撃 背景に海外市場に目を付けるIT経営者

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IT系企業にシフトした基盤

 ひとつは、Jリーグ各チームの経営体制の変化が挙げられる。「脱企業」が前面に押し出され、地域を中心にした共同体、いわばクラブ自体が新たな経営母体だという理想が発足当初のJリーグにはあった。ところが、現実は厳しい。経営が行き詰まるチームが次々に現れた。その流れの中で、近年はIT系の企業がJリーグチーム球団の経営に参画する流れが加速している。

 2006年に楽天がJ1神戸に参入。イニエスタら超大物を獲得できる資金力は楽天だからこそ。2018年10月にはサイバーエージェントがJ2町田の経営権を取得。2019年7月にはメルカリが日本製鉄の持っていたJ1鹿島の株式譲渡を受けた。つい先ごろ、2021年9月末にはミクシィがJ1FC東京の経営権を取得する方針だと報じられた。

 かつて、日立、三菱、古河、トヨタといった企業が中心になって支えられたJリーグチーム球団の支援基盤がIT系企業に大きくシフトしている。この実情が、今回の報道に大きく影響していることは理解する必要がある。

 IT系の経営者たちの発想や視点は、従来の経営者世代のそれとまったく違うことは言うまでもない。彼らの基本スタンスは「ボーダレス」といってもいいだろう。国や地域に限定されない。見据えるマーケットは常にグローバルであり、それはJリーグが掲げるホームタウン制と対極的だ。

 よく言えば、Jリーグが発足当初から掲げていた「国際的なリーグ」としていよいよ本格的に始動する狼煙が上げられたといってもいいのかもしれない。

Jリーグ「ベッティング」に1兆円

 グローバル化という観点から、もうひとつの現実を紹介しよう。つい最近、ミクシィの木村弘毅社長から聞かされた話だ。

「海外のスポーツ・ベッティング(賭け)市場で、日本のJリーグも賭けの対象になっています。外国人たちが、Jリーグの予想に賭けているのです」

 2018年にアメリカでスポーツ・ベッティングが合法化されて、すでに23州で合法化されたという。その売り上げ規模は年々増加。以前から、「イギリスのブックメーカーは何でも賭けの対象にする」と有名だが、すでにJリーグも対象になっているのだ。しかも、「私たちが得た情報では、Jリーグに賭けている金額が年間1兆円以上もあるのです」(木村社長)という。

 その数字を聞いて、驚いたのは言うまでもない。日本と関係のない海外のベッティング・マーケットで、すでにJリーグは1兆円以上の価値を持っている。超魅力的なコンテンツと言うべきだろう。この恩恵を無関係な海外企業に刈り取られるのを指をくわえて見ているのは耐えられない、と日本の企業家が考えるのは当然だろう。

 発想を国内という枠、ましてや「ホームタウン」という枠に閉ざして考えるのでなく、ホームタウンに根差しながらも「制約」を解き放ち、グローバルな視点でJリーグやスポーツの展望を開拓する。劇的な変化にも柔軟に対応するサッカー界には改めて感服させられる。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。「ナンバー」編集部等を経て独立。『長島茂雄 夢をかなえたホームラン』『高校野球が危ない!』など著書多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年10月22日掲載

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