「おかえりモネ」で朝ドラ史上屈指の難役を演じた清原果耶 言葉が突き刺さる脚本に魅了された
「空気を読んで発言しない」「相手のために言葉を濁す」ことを美徳とする日本では、鋭くて穿った言葉は忌避されがち。ところが「おかえりモネ」は、あえて言葉にする勇気に満ちたドラマだ。
主人公の永浦百音(ももね)(愛称モネ)は、宮城県気仙沼沖の亀島に住んでいた。東日本大震災当日は仙台にいたため、亀島での被害を体験していない。その数日間のうしろめたさや罪悪感に長く苦しむ。喪失感ではなく無力感に苛まれているヒロインだ。不幸・不運・不遇でもない。明るく元気で負けず嫌いという単純な気質でもないため、朝ドラ史上でもかなりの難役。演じるのは、複雑なキャラが得意な清原果耶。
このモネがモヤモヤしつつも、登米(とめ)の森林組合や東京の気象予報会社などで人と縁と運に恵まれ、順風満帆と思いきや。故郷に戻って、気象予報会社ひとり営業所を任されて、今に至る。とにかく幸運。気象予報士の試験も3回目で合格、瞬く間にテレビ番組でレギュラー出演。モネもってるね。
でもね、モネをただのラッキーガールで終わらせないのがこの作品の長所。モネは友人や同僚から言葉を突きつけられる場面が異様に多い。本質を突く痛い言葉のサンドバッグ状態。これを「モネる」とでも呼ぼう。
まず最初のモネった瞬間。気象予報士の同僚・マリアンナ莉子(今田美桜)からは「なんか重いよね。人の役に立ちたいって言うけど結局自分のためなんじゃん?」と言われる。悪意はない。欲望全開な莉子の潔さにモネも心を開く。人の役に立つという意味を、その後もずっと自問し続けることに。
幼なじみのスーちゃん(恒松祐里)は常に直球で裏がない。震災で家族を失った幼なじみにモネは気を遣うが、スーちゃんは疑問をぶつけた。「そういうのおかしくない? なんで地元で頑張ってるのがエライみたいになるの?」。このシーンは示唆に富んでいた。被災して立ち直ることができない人もいれば、いつまでも被災地と呼ばれることに疑問を抱く人もいる。被災地の若者たちが初めて腹を割って話す重要なシーンだった。
震災で心が荒んでしまった父(浅野忠信)を必死で支える漁師のりょーちん(永瀬廉)。モネに恋心を抱いていた幼なじみね。地元の防災に貢献したくて帰郷したモネに「キレイゴトにしか聞こえないわ」と言い放つ。
最もキツかったのは真面目な妹みーちゃん(蒔田彩珠(あじゅ))ね。姉への嫉妬でとち狂ってしまったところは朝ドラ名場面として胸に刻む。皆、モネに真摯に向き合うからこそキツイ言葉の数々。鋭利な刃物のように感じるが、モネは全部受けいれる。ただ寵愛されるだけのヒロインではない。常に心にかさぶたがあり、ことあるごとに剥がされるヒロインだ。傷つくたびに物語の背景が広がり、本質が見えてくる。
おっと忘れちゃいけない。モネの恋人・菅波(坂口健太郎)も名言多数。言葉を紡ぐ人だ。無愛想で不器用だが、語彙は豊富。時に辛辣だが、モネを包んで守る絆創膏のような男。それが菅波だ。
言葉の力を信じている人が丁寧に描いた脚本には、魅了されっぱなしだったよ。