岸田首相から3匹目のドジョウ狙う韓国 米中対立で日本の「輸出規制」が凶器に

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いじめっ子の日本に勝った

――「日本の輸出規制が失敗」とは大ウソなのですね。

鈴置:「韓国の国産化が失敗した」のが本当です。もし、本当に国産化に成功していたなら、全経連が「輸出規制をやめてくれ」と岸田新首相に泣きつく必要はありません。

 文在寅大統領だって7月2日の演説で「政府は日本の輸出規制に対しても外交的解決のため努力しています」と語っています。国産化に成功したのなら、日本の規制など放っておけばいいはずです。

 そもそも、韓国がそんなに簡単に半導体用の素材を国産化できるのなら、とっくにしていたはずです。韓国は半導体王国であり、その素材の国内市場は巨大だからです。

――韓国政府はなぜ、そんなウソをつくのでしょうか。

鈴置:まずは人気取りです。「いじめっ子の日本に逆襲し、へこませてやった」とのストーリーは国民から喝采を浴びます。「手柄」を誇るのは、文在寅大統領だけではありません。

 10月10日、与党「共に民主党」の大統領候補に選ばれた李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事も指名受諾演説で「IMF危機を最も速く克服し、日本の輸出報復に短期間に完全に打ち勝った国民なのです」と韓国人を称賛しました。

 もう1つは「韓国側は痛くも痒くもないぞ」と日本に肩を怒らせることで、「輸出規制」を撤回させたいのでしょう。

――そんな子供だましの手に日本が騙されるでしょうか?

鈴置:韓国政府は「輸出規制で損害を被ったのは愚かな日本の側」と、さらに一歩進めた宣伝を日本で展開しています。効果は予想以上かもしれません。

 朝日新聞の箱田哲也論説委員は「(社説余滴)3年目の『愚策の極み』」(7月4日)で「日本政府が輸出規制を強めたのは問題だらけの悪手だった」とこき下ろしています。

 その理由には「政府の支援で国産化が進んだため韓国に実害はないうえ、日本の素材メーカーが巨額の損失を出した」ことを挙げています。

「輸出規制」で半導体が壊滅

――それにしても韓国が「輸出規制」撤廃に異様な執念を燃やす理由が分かりません。

鈴置:確かに、日本にいると分かりにくい。韓国に今時点で実害がないのは事実です。韓国側や箱田論説委員が言う「国産化に成功した」からではなく、「日本が輸出規制をしていない」からですが。

 日本は「横流し」が疑われる対韓輸出は厳しく監視し始めましたが、まともな取引は認可しています。日本政府が実施しているのはまさに「輸出管理の強化」であって、韓国政府や箱田論説委員の言うような「輸出規制」ではないのです。

――では、いったい、なぜ?

鈴置:現段階で韓国に実害はない。しかし、米中関係が悪化する中、日本が本当の「輸出規制」に乗り出す可能性が増したからです。そうなれば韓国の半導体産業は壊滅の危機に瀕します。

 EUVレジストは先端半導体の製造に不可欠です。この輸出を止められたら、あるいは遅延させられるだけで、追いかけているTSMC(台湾積体電路製造)に、差をさらにつけられてしまう。

 高純度のフッ化水素がなければ、「先端」に限らず半導体すべての不良率が跳ね上がる。これまた死活問題です。フッ化ポリイミドは次世代ディスプレーの素材ですから、今後のスマホ市場のシェア争いを大きく左右します。

中国排除になりふり構わぬ米国

――米国がそこまでするものでしょうか?

鈴置:ええ、少し前までならしなかったかもしれません。でも今や、米国は中国に勝つためにはなりふりを構わなくなりました。ことに、主戦場に半導体産業を選んで、露骨な囲い込みに動いています。

 それに韓国が協力しなければ、米国は日本の「輸出規制」を使って、韓国の半導体産業を締め上げる可能性が出てきました。その布石とも見られる事件が起きたばかりです。

 9月23日、米政府は世界の半導体関連企業に対し、保有技術の水準、顧客別の売上高、在庫などの情報を提出するよう求めました。対象企業はTSMC、サムスン電子、SKハイニックス、アップル、インテルなどに加え、GMやフォードといった自動車メーカーも含まれています。「45日以内」と期限も切っています。

 米政府への情報開示は任意の形をとっていますが、事実上の命令です。ブルームバーグの「White House Pushes Companies to Be Transparent on Chips Supply」(9月23日)は米当局者の「応じない企業に対しては強制する方法がある」との発言を伝えています。

 情報開示を要求した目的は「最近の半導体不足を解消するため」とされていますが、素直に信じる専門家はいない。「米国の同盟国だけで半導体供給網を作る」戦略の第一歩と見るのが普通でしょう。

 米政府は開示させた情報をもとに「この半導体は米国で作れ」「この半導体は中国に売るな」などと、半導体メーカーに命じることができるのです。

 9月24日にワシントンで開いた、日米豪印による中国包囲網QUAD(クアッド)の首脳会談で、半導体の供給網構築に合意したことからも、それは明らかです。

 QUADはこの供給網を中国への半導体供給や技術移転を止めるためにも使う、との意図を隠していません。首脳会談後に公表された「技術利用に関する共同原則」は「技術の設計、開発、ガバナンス、利用に関する方法は民主的な価値や普遍的人権の尊重によって形成されることを確認する」と謳っています。

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