ある日突然「不倫相手」を喪ったアラフィフ男の涙 死後、彼女の携帯から着信が

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突然かかってきた電話

 1年後、絵美さんの携帯から電話がかかってきて、将太さんは飛び上がるほど驚いた。出てみると、女性の声で「絵美の娘です」と言う。その日、仕事が終わってから会うことになった。

「絵美にそっくりなお嬢さんでした。名乗るより前に『母が愛した男性に会いたかったんです』と。僕は何も言えなかった。『私、先日、20歳になったんです。生きていれば、母はあなたと一緒になれたかもしれないのに』と彼女は言いました」

 絵美さんの娘の弥生さんは、母親の携帯を解約する気になれず、ずっと保管していた。暗証番号も知ってはいたが、見ることはできなかった。20歳になったのをきっかけに思い切って見てみたら、「やはり母には好きな人がいた」とわかったのだという。

「母は父からいつもモラハラを受けていました。私は中学生くらいのときから、離婚すればいいと母に言っていた。でも母は大丈夫だからって、私の前ではいつも笑っていた。高校生のとき、繁華街で偶然、母を見かけた。母の足取りが見たことがないほど軽かったので追ってみたら、カフェに飛び込んでいった。男性と待ち合わせをしていたらしい。男性の顔は見えなかったが、母はとろけるような笑顔をその男性に向けていた」

 弥生さんはそう将太さんに話した。聞いているうちに将太さんは涙を流していた。絵美さんが亡くなって初めて、やっと泣くことができたのだという。

「責められてもしかたがない立場なのに、弥生さんは僕を責めなかった。母にも幸せな時間があってよかったと言ってくれて。大学生の弥生さんとは、たまに連絡を取り合っています。就職の相談に乗っていますね、最近は。本当なら縁を切ったほうがいいのかもしれないけど、彼女の顔を見ると絵美がいるような気がして。つらいのに会いたい。会いたいけどつらい。絵美がいなくなったのを、僕はまだ認めたくないんです」

 不思議な縁から生まれた新たな縁なのかもしれない。絵美さんが亡くなって2年がたつ。将太さんの子は19歳と17歳になった。あのままいけば、3年後にふたりは一緒になるための行動を起こしていたのかもしれない。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年10月13日掲載

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