ある日突然「不倫相手」を喪ったアラフィフ男の涙 死後、彼女の携帯から着信が

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逃れられないと覚悟して結婚

 将太さんは大学卒業後、地元企業に就職した。29歳のとき3歳下の女性と社内結婚。すぐに長男が、31歳のときに次男が生まれた。それを機に夫婦で会社近くに住み、社内託児所を利用するようになった。

「今になってこんなことを言うのは、妻の亜由美に失礼だとわかってはいるんですが、この機会ではないと言えないので本音を打ち明けます。妻のことは特に好きではなかったんです。面倒見がよくて明るい子だったけど、そのとき、学生時代からつきあっていた彼女と遠距離恋愛になっていた。魔が差したんでしょうね。部署の飲み会の帰りに亜由美がいきなり腕を組んできて、『もう一軒、行こうよぅ』としなだれかかってきた。亜由美のつけている香水だか化粧だかわからないけど、甘い香りがぷーんと鼻孔をくすぐってきて……。ふたりでみんなから離れてそのままホテルに行ってしまったんです」

 たった1回で亜由美さんは妊娠。逃れられないと覚悟して結婚したのだという。子どもができてからも共働きを続けているために世帯収入は悪くない。家事も育児も協力しあってこなしている。それでも彼は、この結婚への不満を心の底にためていった。

「亜由美はいい人なんだけど、一緒にいておもしろくないんです。結婚して初めてわかったけど、彼女は“食”に興味がない。食だけじゃなくて、文化的なもの全般に関心がないんです。映画も観ないし本も読まない。それでも生活はできるけど、『人間はそれで満足できるのか』と僕はいつも疑問を抱いていました」

 忙しいからという理由で、亜由美さんは冷凍食品や出来合いの惣菜を頻繁に食卓に出す。週末、「たまには作り置き惣菜を作ろう」と将太さんが持ちかけても、亜由美さんは「ふだん忙しいんだから休もうよ」とだらだらしている。将太さんはひとりでキッチンに立つ。

「それでもいいんですけどね、なんだか寂しいじゃないですか。キンピラ、こんな味でいいかなとか、前にレストランで食べた魚のムースを再現してみようよとか、そうやってふたりで探求するのが好きなんですよ、僕は。亜由美は絶対にそういうことを一緒にしようとはしない」

 子どもたちが寝静まってから、ふたりでワインでも飲みながらDVDを観ようと誘ったことも多々あるが、「映画って眠くなっちゃうんだよね」と亜由美さんは言う。それでも営業職の彼女は業績がよく、取引先の評判もいい。

「人と話すのが好きなんでしょうね。努力もしていると思う。ただ、文化的なことには興味がない。非常に現実的な女性なんだと思います。それはそれで悪くはないけど、僕とは違う。結婚生活を続けていくうちにそう感じるようになっていったんです」

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